このイタリア映画のこと、いつか話してみたいと思っていました。イタリアは、精神科病院を廃止した国なんです。1970年代後半に、フランコ・バザーリアという精神科医が、精神障害のある人たちの自立をめざそうと、国中の精神科病院の閉鎖を訴えたのがきっかけでした。そんな時代の実話にもとづく映画です。
ファッションに関わる仕事をしながら、看護師として、精神科病院などで働いてきました。自分の身に起きた苦労の体験を患者さんは日々豊かな表現で語ってくれる。それを「症状」と呼んでカルテに記録するだけではもったいないというか、表現の居場所としては窮屈な気がして。そんなもどかしさを感じていたころ、この映画を見てエンパワーメントされ、映画の舞台と似ているような地域活動拠点「べてるの家」(北海道浦河町)へ働きに行きました。
みんなで集まって話し合うシーンは、べてるの家の日常が思い出されます。一対一よりも、みんなで話す場の力を大事にしている。映画でも、初めは働くことに受け身だったのに、支え合いながら仕事を作り上げていく中で、次第に自分たちが主体になって話し合うことに熱中していく。自分の言葉を取り戻していくようにうつりました。
映画の中の彼らに、私が看護師として出会ってきた大切な方々を重ねて見てしまいます。この映画を見るといつも、まるで鏡のように私自身の苦労も照らし出される。そんな潜在意識が働いて、眺められているような絵を描いてしまったのかもしれません……。
(聞き手・島貫柚子)
監督=ジュリオ・マンフレドニア
製作国=イタリア 出演=クラウディオ・ビジオ、アニタ・カプリオーリほか
つの・せいらん 1990年長野県生まれ。2018年の国際ファッションコンペ「ITS」で最終選考に残る。文芸誌・文学界に「『ファット』な身体」を連載中。
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