何が起こったのか考える間もなく事態は進んでいってしまう……。今そこで起こっている事件に巻き込まれているような気持ちにさせられる映画です。あまりにすさまじい主人公の生き様に圧倒されて内容の重さにもかかわらず、のめり込んで見てしまう。紛争地域ではどんなことが起き、どんな気持ちで生きているのか世界の現状に触れた気持ちになります。
カナダで暮らす双子の姉弟が、それまで名も存在も知らなかった父と兄を「捜し出して」という、急死した母ナワルの謎めいた遺書を受け取ります。その謎を解くため、姉弟がナワルが育った中東の国へ旅に出て、そこで起きていたこと、ナワルの生き様を知っていきます。
ナワルはキリスト教系の集落で育ちましたが、イスラム教系の難民キャンプの青年と恋に落ちて妊娠するも兄に恋人を射殺され、自分も殺されかけます。その後生まれた息子は生後すぐに孤児院に出され、自らは故郷を追われて大学に通います。しかし、息子を捜しに向かった孤児院はキリスト教系の襲撃で焼け落ちていて、落胆した帰りのバスで運命を変える事件が起き、自らの意志でキリスト教系の政府指導者の暗殺に加担することに。監獄に収監され拷問を受けるナワル、そしてさらに過酷な運命が……。悲惨で陰鬱なことが次々と起こるのに、残酷描写はほとんどなくスタイリッシュな映像美に溢れています。
とにかく主人公ナワルを描きたかった。美化した肖像画のようではなく、ナワルの重要な局面でのそれぞれの表情を描きました。(聞き手・本多昭彦)
監督=ドゥニ・ビルヌーブ
製作国=カナダ・フランス 出演=ルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモープーラン、マキシム・ゴーデットほか
きたざわ・ゆうき 1962年長野県生まれ。青熊舎でe―ラーニング動画製作も。10月21~26日、東京都港区南青山のスペースユイで個展。
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