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林家楽一さん(紙切り)
「秋刀魚の味」(1962年)

サンマはいつ出てくるんだろう

 7、8年前、東京・上野の寄席で注文を受けたのです。「小津安二郎」って。困りましたね、全然世代じゃないので。紙切りは、お客さんの注文を受けて即興で切りますが、知らないものは難しい。でもお客さんは待ってくれない。頭に浮かんだ「東京物語」を切り出しましたが…………。これがきっかけで、小津映画を見始めました。

 流し見で何度でも楽しめるのが、「秋刀魚の味」。紙切りの稽古をしながらとかお酒を飲みながら、途中トイレに行って戻ってきて、「ああ、もうここか」。映画ファンに怒られそうですね。サンマはいつ出てくるんだろう、焼くシーンでもあるのかなと期待するのですが、これが一切出てきません。あらすじはあるようでないのです。起承転結の起と結なら、娘がいて、結婚する。その間は借金してまでゴルフクラブを欲しがったり、おじさん3人がうだうだ言いながら晩酌したり、と何があるわけでもなくて。「いやあるよ。十分ありますよ。あるんだ」「そうかな、あるかな」「あるある」と、まどろっこしい会話も癖になってきます。わざと感情を込めない言い回しをしているようにも聞こえる。そうすると、見ているこっちの感情がこもるので。

 カメラも役者も動かない。机の上には小道具が不自然に散らばっている。なんか笑っちゃうんですよ。でも、瓶はこう置けば邪魔にならないのか、と構図の勉強になります。紙切りは、シルエットで伝え、「何してるんだろう」と物語は想像して補う。この映画は、どこを取っても、紙切りっぽいですね。

(聞き手・島貫柚子)

 

  
   監督・共同脚本小津安二郎   

 製作松竹

 出演笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子ほか

 

 はやしや・らくいち 1980年神奈川県生まれ。故・三代目林家正楽師匠に憧れ、紙切りに。10日まで、東京・上野の鈴本演芸場と浅草演芸ホールの夜席に出演。

 

 

 

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https://www.asahi-mullion.com/column/article/dmovie/6109

(2024年7月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)