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たかぎなおこさん(イラストレーター)
「めがね」(2007年)

たそがれて見えてくるもの

 たかぎなおこさん「めがね」(2007年)

 

 マラソンのコミックエッセーを描いていたので、鹿児島・与論島で毎春あるマラソンに興味があって、島が舞台のこの映画をリバイバル上映で見ました。

 与論島にめがねをかけた主人公タエコがふらりとやってくる。宿泊先は人がほとんど来ない小さな民宿ハマダ。毎朝島の子供たちを集めて自作の不思議な体操をし、海辺でかき氷屋をしているサクラや女性教師ハルナら、めがねをかけた風変わりな人ばかり集まっています。タエコは別の宿に移ろうとしますがそこは、宿泊者を強制的に畑作業に参加させる宿だったのですぐ舞い戻ります。

 サクラが「大切なのは焦らないこと」と言いながら台所でかき氷用の小豆を辛抱強くゆでるシーンが好きですね。何もしないと焦ってしまいがち。旅に出たら観光やグルメを楽しまないとって。「たそがれかた」がよくわからないんです。

 タエコやサクラの職業や素性、どんな事情で島へ来たのかはわからずじまいです。実は、タエコは作家で、彼女を「先生」と呼び、島に追いかけてきた男は編集者なんじゃないかと思いました。春の季節にまた集う。決まった息抜きの場所があるってうらやましいですね。

 海を見ながら、物思いにふけり、一息つくと、やりたいことや、やらなきゃいけないことが見えてくる。そうしたら旅の終わり。私は映画を見たあと、ヨロンマラソンに出場するため島を訪れました。きれいな海や宿など、何もかもが映画のままでした。

聞き手・佐藤直子

 

  監督・脚本=荻上直子
   出演=小林聡美、市川実日子、加瀬亮、光石研、もたいまさこほか。
たかぎ・なおこ
 1974年、三重県生まれ。主な著書に「150cmライフ。」「ひとりたび1年生」など。最新作「海外マラソンRunRun旅」を発売中。
(2014年6月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)