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消して 重ねて 砂で描く物語 伊藤花りんさんインタビュー

 私が初めて「サンドアート」を目にしたのは、とあるアーティストのミュージックビデオ(MV)でした。1枚の絵に手を加えたり削ったりすることで、歌詞とともに絵が移り変わっていく様子に驚きました。そのMVを手がけたのは、伊藤花りんさん。サンドアーティストとして、サンドアートと生演奏を組み合わせた独自のライブパフォーマンスを展開しています。
(聞き手・中山幸穂)

 

伊藤花りん

 いとう・かりん サンドアーティスト。北海道生まれ、東京都在住。幼少期からのバレエの経験を生かし、サンドアートとライブパフォーマンスを組み合わせた公演を国内外で開く。東方神起や斉藤和義などアーティストとコラボレーションし、MVなども手がけている。

Instagram(@karinitotheater)   YouTube(@karinitotheater)

 

サンドアートとは……?
砂を使用した芸術の総称で、様々な種類がある。伊藤花りんさんは、ガラスなどの透明な板に光をあて、板の上で砂を動かして絵を描いて物語を展開していく「サンドアートパフォーマンス」を得意としている。

伊藤さんのサンドアートパフォーマンス「かぐや姫」: https://youtu.be/p81WaG6J44U?si=2URv_FR9_Tbm8Anf

 

――伊藤さんの「サンドアート」はライブパフォーマンス込みで作品というイメージを持っています。このスタイルはどのようにしてできあがったのでしょうか。

 サンドアートを始めたそもそもの理由は、ライブパフォーマンスができるからなんです。どうしてもライブペインティングだと、サンドアートほど早くは絵を展開させられない。載せていくことしかできず、前の絵を消せない。サンドアートは一瞬で消したり変えたりできるということと、お客さんの前でライブでできるところが面白いと思ったんです。なので最初からライブパフォーマンス込みでサンドアートを考えていました。例えるならばシンガーソングライターみたいな。自分で作品を作って自分でパフォーマンスする感じです。 バレエをしていたこともあってか、生演奏に合わせたパフォーマンスがすごくやりたかったんです。「不思議の国のアリス」の作品を作った時は、効果音も全て生音で再現してもらいました。

「不思議の国のアリス」: https://youtube.com/shorts/JWV22ZRdBcA?si=NGwOHrEp56COr6rx

 

――パフォーマンスする時に特に意識していることはありますか。

 いつも緊張しちゃうので、とにかく落ち着こうと思っていますね。「こういう風に伝わるといいな」といった思いは作品を作る時に考えていて、本番は練習してきたことをちゃんとやろう、みたいな。どこからでも面白く見えるようにしたいとは思っているかもしれません。カメラが上にもあるので、砂を落とすときの手がカメラに映った時になるべく綺麗に見えるように心がけています。見ていただいている方にとにかく楽しんでもらいたいという気持ちが一番です。

 

――伊藤さんの作品は質感が見えるところが好きです。

 結構、ばーって勢いで描いてるんですよ。砂を上から落とすだけでそれっぽく見えます。

 

(以下伊藤さんに実演していただきながらの会話)

 サンドアートの作家によって、使っている砂は違うと思いますが、私が使っている砂は真っ白なので結構陰影がつきやすいんです。砂が黒いと、置いた時に陰影がつきづらいんですよね。白いとたくさん透けるんですよ。陰影は砂を乗せる量で変わります。たくさん乗せたところは黒くなって、寄せたところが線になっていく感じ。ただ砂の密度が高くないと黒く見えずに薄くなってしまう。細かい砂を手に入れるのがポイントかもしれません。

 初めのころは自分で砂を振るっていましたが、現在は特注の砂を使用しています。とても細かい砂なので、その分扱いが難しかったりもしますが、これぐらい薄いと一度書いた上から影がつけられるので気に入っています。

 

――砂が細かいから全体的にふわっとした印象になりますね。

 私は淡い絵が好きなので、サンドアートでも淡さがある感じの色を出したかったんです。 砂を置かず真っ白にすると、また雰囲気が全然違ってきます。本当に薄く砂を散らすことによって奥行きが見えてきます。

 

――上から見ていても指で絵が隠れておらず、描いている様子がよく見えます。

 描いている場所が見えるように意識してはいるのですが、全部はやっぱり難しいので、なるべく手が格好悪く見えないように気をつけています。

 

――基本的には小指で描いているのでしょうか。

  小指が多いと思います。指を立てたり寝かしたりすることで太さが変えられるので、動物の足とかは小指を使っています。

 

説明しながら描いてくれました

 

――作品を完成させる前には、下描きをするのですか。

 砂で描く前にある程度スケッチブックに描くこともあります。スケッチブックに描いたものを見ながら、練習して、自分の中で認識がずれてきたり細部を忘れてしまった作品を思い出したりしています。

 

――普段自分で自由に作る時は、どういうところからインスピレーションを得ているのでしょうか。

 2パターンに分かれます。一つは音楽にあわせて作るパターン。アーティストさんとコラボするときは音を聴いたイメージで作っています。感覚はダンスに近くて、この音を使いたいからこのタイミングでこれを描こうみたいな。

 

――音に合わせて手を動かしたいという感じでしょうか。

 そうですね。音を決めて、そこに手の動きをリンクさせるとか。音楽だと最初に尺を出して、ここの時間までにどういうもの描きたいか、みたいに逆算しながらつくっています。

 

――音以外に、インスピレーションを得るもう一つのパターンは何でしょう。

 物語を先に考えているパターンです。見せたいイメージを思い浮かべて物語を考えていきます。柔軟に考えられるよう、絵コンテみたいに並んでいるものを使わないで、自分で四角を引いて構成するようにしています。

 

――映画など映像作品からインスピレーションを得ることはありますか。

 無意識のうちに得ているところはあるような気がしますが、映画をテーマにすることはあまりありません。サンドアートは絵を描かなきゃいけないので、実写映画みたいな動かし方はできません。場面転換では考え方をパズル的にしなければいけないんですよね。こっちの順番になると描けるけど、こっちからは描けないみたいな。

 でもデザイン的な画角や構成などは映画の影響を受けている面もあると思います。デビッド・フィンチャーは画面構成が上手い映画監督だというイメージがあります。タイトルが出るシーンがすごいお洒落なんですよね。セットが動いていてそこにすって文字が出てくるみたいな。「セブン」は、犯人が最初に手記みたいなものを書いてるんです。その文字が並んで、タイトルとか監督名になる。そのイメージがすごくカッコよくて。

 

――今回、朝日新聞夕刊「私の描くグッとムービー」欄に、映画「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」を題材に作品を制作してもらいました。この映画を選んだ理由を教えてください。

 

 

 最近見た映画の中で、総合的に好きだと感じたからです。それと、この映画は全てコマ撮りで撮られています。私もコマ撮りアニメーションを製作した経験があるので、自分の仕事ともリンクする部分があるなとも思いました。

 

――コマ撮り……映像に映っている全てのものを少しずつ動かして撮影する方法ですよね。

 そうです。コマ撮りで撮っているということは、実際の木が動いているということじゃないですか。木に生命が宿るという物語の世界と作品の作り方がすごくリンクしていますよね。CGではなく、手で作っているものの質感やあったかさを感じられます。コマ撮りの撮影は、素材をちょっと動かすだけで何時間もかかるんですよ。ここまで大掛かりなコマ取りってそんなに出来ることじゃなく、そのうえ、こんな素敵な作品に仕上がっていること自体に感動します。

 

――「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」は、原作「ピノッキオの冒険」やディズニー版アニメとは異なり、第一次世界大戦時のイタリアが舞台になっていますね。

 デル・トロの作品には、反戦とか、子供や弱い立場の人が守られた方がいいよねといったメッセージがよく描かれているように感じます。この作品も最初、すごく良い子で悪いことをしてきたわけじゃない息子が戦争で運悪く死んでしまう。世界ってそういうものかもしれませんが、人間同士だったらお互いに思い合い、助け合えば良いことが起きることもあると思うんですよ。でも戦争は良い人が生き残るわけじゃないじゃないですか。ただの確率で、どんなに良い人でも死んでしまうし、選ぶことはできない。戦争はそんな理不尽なものであるということを伝えつつも、しかしこの作品は、暗くなりすぎないようにポップに描かれていてバランスが絶妙であるなと思います。

 

――作品に描かれているのはピノッキオと、後ろは砂時計でしょうか。

 ピノッキオは嘘をつくと鼻が長くなりますが、ただ長くなるんじゃなくて、葉っぱが生えたり枝分かれして木が成長したりする。そんな表現が好きで、木が伸びている様子を描きました。

 

作品メイキング

 

――先ほど少し話してもらいましたが、伊藤さんもコマ撮り作品を作っていたそうですね。もともと作品をつくりたいと思っていたのでしょうか。

 小さいころはクラシックバレエを習っていて、バレエダンサーになりたかったんですよ。ただ、バレエは10代で海外の舞台に立てるくらいの実力がいる世界なので、私には無理かもなと思って。でも表現することが好きだったので、なにかやりたいなと、作品を作る方にいったんです。

 東京に出てきて、自主制作映画のお手伝いをしている中で、制作仲間たちに背中を押されて色々手伝ってもらいながら、実写とストップモーションアニメを混ぜた作品を作っていました。作品の中ではビーズを動かしていましたが、砂だとリアルタイムで動かせることを聞き、そこでサンドアートの存在を知りました。一つずつコマ撮りするよりもリアルタイムでパフォーマンスする方が、自分にはきっと向いているんじゃないかなと思い、自己流ではじめました。海外の人のYouTubeを見て調べながら、最初の作品を上げたのが2012年。それを見てくれた方にお願いされたり、知り合いづてでイベントに誘っていただいたりして今に至っています。

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