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RYOOOOOJ!さん(イラストレーター)
「すばらしき世界」(2021年)

 元殺人犯・三上正夫が13年の刑期を経て、社会で懸命に生きるヒューマンドラマ。愛らしい一面に笑ってしまうところもあれば、真っすぐすぎる性格故に危なっかしくてヒヤヒヤする場面も。今までで一番、感情が揺さぶられる映画でした。
 前科があり、短気な性格から職探しもうまくいかない。僕も18歳から働いた親の会社を辞め、28歳で初めて転職活動をした時、世間知らずで社会になじめなかった。もどかしい気持ちが三上と重なって見えました。
 きちょうめんな性格で生活を整えていく三上買い物先のスーパーの店長と話す中で、店長と三上の父親が同郷と分かり急に距離が縮まった2回目の転職でカメラマンをしていた頃、僕も初対面の人に出身地を聞きました。故郷の話で盛り上がる感じわかります自分は人と接したり話をしたりするのが好きなんだと、気づけました。
 やっと介護職についた三上のために、身近な人たちがお祝いパーティーを開いてくれたのですが、あの雰囲気は苦手。良かれと思ってかける言葉が三上の負担になり、期待に応えようとしていて苦しそうでした。タイトルの「すばらしき」という言葉も考えさせられます。三上のいる世界は本当に素晴らしかったのか。いい意味にも残酷にもとれる気がしました。
 イラストの中央は三上、後ろは介護施設の同僚の男性。彼がコスモスをくれるシーンがとても優しくて、どうしても描きたくなりました。パイロンの向こう側は社会。そこに乗り込む、飛び越えていくイメージです。
(聞き手・片山知愛)
 

  

 監督・脚本=西川美和

 出演=役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、長澤まさみほか

 りょうじ 大阪府在住。デザイナーとしても活動。ドラマ「いちばんすきな花」(フジテレビ系)の劇中でLINEスタンプが起用され話題に。