読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
62プレゼント

午後さん(作家)
「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」(2017年)

出会いや共感 生きていく希望に

 社会にはびこる漠然とした生きづらさや不安感が鮮明に描かれていて、グッときました。映画って面白いんだ、と気付かせてくれた作品です。

 最初に見たのは学生の頃。授業で紹介されて、東京・渋谷のミニシアターに足を運びました。昼は看護師、夜はガールズバーで働く美香と、建設現場で日雇いとして働く慎二。東京で暮らす2人の若者が出会う物語です。

 作品の舞台も東京・渋谷なので、映画館を出た後は作中の2人の気配を感じて、いつもの街が特別なものに見えました。当時、就職について悩んでいた時期で、登場人物たちの明日が見えない気持ちが痛いほど分かったんですよね。

 物語の終盤、世の中にまた不幸なことが起きたらどうするかと聞く美香に、慎二は「とりあえず募金する」と答えます。美香はその何げない言葉を聞いて、今まで見落としていたような行動こそが、実は社会を良くすることにつながっているのだと気付きます。そして、そのために働きかけてきた人がちゃんといたんだ、ということも。そこにホッとして、生きていこうと思えたのかな。

 1人で現実に立ち向かうことは難しくても、誰かと出会うことで向き合い方が少しだけ変わる。それは私たちの人生にもあるドラマだと思います。

 何に対して希望を抱くのかは、人それぞれです。私は自分の作品を通して、知らない誰かと共感し合えることに希望をもらえています。みんな色々な思いを抱えつつも、何かから希望を得て、折り合いをつけて生きている。この映画を見てそう気付けたことが、すごくうれしかったんです。

(聞き手・斉藤梨佳)

 

 
 監督・脚本=石井裕也

 原作=詩集「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(最果タヒ)    

 出演=石橋静河、池松壮亮、松田龍平ほか

 

  ごご SNSに漫画を投稿したことから話題に。レシピつきエッセー「眠れぬ夜はケーキを焼いて」(KADOKAWA)1~3巻発売中。 

 Xアカウント
 https://x.com/_zengo

 

(2025年2月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)