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小倉ヒラクさん(発酵デザイナー)
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)

 ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画が最高だと、他の監督の作品を見るたびに実感します。

 大学の映画評論の勉強で千本近く見たうちの1本。ロメロの「ゾンビ3部作」の中で一番好きな作品です。当時のアメリカの社会問題がちりばめられているんですよね。

 映画が始まってすぐに、墓参りをめんどくさがる若者がゾンビに食われたり、一晩耐えて生き延びた黒人青年が、白人自警団に助けを求めたのにゾンビと間違えられて射殺されたり。当時のアメリカは公民権運動や社会運動が盛り上がり、若者の進歩的な考え方と保守的な価値観が衝突していた。新しいアメリカが従来のアメリカに屈服する姿を、ロメロはゾンビをモチーフに象徴的に描いたんです。このシニカルで独特な視点が、たまらないんです。

 ゾンビ映画は疲れた時、心が沈んだ時に見ます。社会人になり、仕事が忙しくなってから気付いたんですが、何かが吹き飛んで癒やされるような感じがするんです。この映画のゾンビは走らないですよね。ゆっくり動く。速く走れば逃げられるのに、冷静さを失った人が襲われていく。過激なことをやっているのに肩の力が抜けていて、心の底からびっくりしないわけです。型が決まった、いわば歌舞伎のような様式美なんですよね。

 そういえば、有名俳優が出演していないのも、誰が襲われるのか分からないギャンブル感があって好きです。ブラッド・ピットが出ていたら、生き残るって分かっちゃいますから(笑)。

 

(聞き手・増田裕子)

 

 

 

  

 監督・共同脚本=ジョージ・A・ロメロ

 制作国=米

 出演=デュアン・ジョーンズ、ジュディス・オーディア、カール・ハードマンほか

 

 おぐら・ひらく 1983年生まれ。本やアニメ、展覧会企画などで発酵文化の魅力を発信。発酵専門店「発酵デパートメント」オーナー。著書に「日本発酵紀行」など。

 

 

 

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