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大塚愛さん(アーティスト)
人のセックスを笑うな(2008年)

 大好きな俳優の永作博美さんの出演作品は意欲的に見ていて、幾度となく見返す。これは、私にとって「グッ」ときている証しだろうな、と。

 「みるめ君」は美術学校に通う学生で、美術講師の「ユリちゃん」に出会い、不倫関係に。2人を中心に、学生たちの能天気で、けだるい日常が描かれる映画です。
 登場人物たちの芝居が秀逸で、台本を感じません。等身大の彼らは全員ダメでダサくてカッコ悪い。これを自然に描くことで「ダサくていい」って、気づかせてくれます。恋愛やセックスは、一番自分がダサくなる行為でしょう?そんな自分に向き合うから苦しくもあり、楽しくもある。カッコ悪いことが「いとおしい」と思えるって素敵じゃないですか。
 2人の関係は、ユリちゃんが突然講師を辞してインドに渡ることで終わります。失意のまま、駅前のロータリーをバイクで延々と周回し、酔いつぶれるみるめ君をみて思いました。彼はユリちゃんの一部分しか見えてなかったのかもな、と。
 全貌(ぜんぼう)を見たいと追いかけても、風が吹いて髪の毛の間から一瞬見える口元ぐらい。その口から発せられた言葉も、風のように消えてしまい……。彼が見ていたであろう、幻のようなユリちゃんを油絵の具で描きました。
 映画はユリちゃんにもらったハート形のライターに火をともすシーンで幕を閉じます。油切れなのか何度やってもつかなくて、でも最後にはついちゃう。そう、恋の炎って、そんなに簡単に消えるものじゃないよね。

(聞き手・鈴木麻純)

 

 

  

 監督=井口奈己

 脚本=本調有香、井口奈己

 原作=山崎ナオコーラ

 出演=永作博美、松山ケンイチ、蒼井優、忍成修吾ほか

 おおつか・あい 2月にライブの模様を収録したDVDとブルーレイ「LOVE IS BORN~21st Anniversary 2024~」を発売。個展「AIO ART ふ」を6月1日まで軽井沢ニューアートミュージアムで開催。

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