たまたま入ったステッカー屋さんで一目惚れしたイラスト。淡い色味と雰囲気にひかれ購入したステッカーはすぐに一番のお気に入りとなり、気がつけばお店に行く度に購入するようになりました。そのイラストを描いていたのは佐々木昂さん。今回はイラストレーターの道へ進んだきっかけやイラストについてなどお話をうかがいました。 (聞き手・中山幸穂)
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佐々木昂 ささき・あきら 1989年生まれ、兵庫県出身。少女や動物のイラストを描く。ステッカーブランド「B-SIDE LABEL」でデザインを手がける。6月9日からなんばパークスで開催のレコードアート展「WANTED」( https://kumori22.thebase.in/)に出展中。 |
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――佐々木さんの描く作品はふんわりしていて透明感を感じます。この画風にはどうたどり着いたのでしょうか?
ずっと高校までは好きに描いていただけだったので、決まった画風みたいなものがなかったんです。だからこそ大学に入って絵を描いていく中でどうしようか思い悩んで、絵を描くことがいやになってしまった時期があって。そのことを教授に相談したときに、今まで使ったことのない画材を使ってごらんって言われて、使ってみた画材が現在描くときにもよく使用しているカラーインクです。はじめはなかなかうまく扱えませんでしたが、参考にできそうな作家さんを見つけて試行錯誤を繰り返した結果、今に至る感じですかね。
カラーインクとは……?
主に印刷を前提としたカラー原稿の制作時に使用されてきた着色・描画材料。
水彩絵具よりも透明度が高く鮮やかな色合いが特徴。水で薄めて使用することが基本。
――カラーインクは扱いが難しいとのことですが、どんな点が難しいのでしょうか?
ほかの画材と比べて、カラーインクは色と色の境界が出づらいんです。僕は当時「主線を使わずに絵を描く」というルールを自分で設けていたので、余計難しく感じたのかもしれません。
――「主線を使わない」とは?
主線とは、イラストで人や物の輪郭を表す線のことです。輪郭なしで描くとき、例えばアクリル絵の具だったら異なる色を置くだけで境界線を表現できますが、カラーインクは先ほどお話したように色と色の境界が出づらく、うまくいきませんでした。色んな作家さんの作品を見てグラデーションをかけたらいいんだと気づき、そこからうまく扱えるようになりました。
――佐々木さんは幼い頃から画家やイラストレーターを志していたのでしょうか?
いいえ、高校卒業時には考えてもいませんでした。というのも、親から「将来は安定した職に」と言われ続けてきたんです。だから一般の国公立大学に進学するつもりでした。でも将来を考えたときに、せっかくやったら興味あることを仕事にしたいと思いセンター試験が終わってから進路を切り替えました。
――卒業直前ですね!
親とも喧嘩しましたね。最初は教育大学に行って美術の先生になろうと考えていましたから。
――どうして先生の中でも美術の先生に?
それまでの短い人生で一番続いたものってなんだろうって考えたときに落書きだったんですね。小中高生のころは人に頼まれてポスターとかパンフレットの絵なども頼まれてよく描いてました。そのとき喜んでもらった経験が心のどこかにあって、選択肢に入ってきたのかもしれないです。
――最終的には教育大学ではなく美術系の大学を選ばれたんですね
あるとき友人から「先生よりも絵描きの方がよくない?もったいないよ」とそそのかされたんです。最初は「そんなん簡単にできるもんじゃない」と思っていましたが、絵を描くことを仕事にしている人たちを紹介してもらったり、それこそ今関わっている「B-SIDE LABEL」みたいな仕事もあるよ、みたいなことを教えてもらえたりなどしているうちにイメージがついてきて「これはなんとかなりそうだ」と決心がつきました。
――友達の一押しがあって、今につながっているのですね。ステッカーブランド「B-SIDE LABEL」やご自身のWebストアでは少女のイラストを中心に様々なテイストのステッカーを制作されています。ステッカーにするモチーフの題材はどのように選定しているのでしょうか?
ステッカーに使用するカットイラストでは、メインになるモチーフとそのモチーフを説明するアイテム1つ、それぞれの大きさとわかりやすさを意識しています。例えば白雪姫をメインとすると、説明するモチーフはりんご、とか。
「白雪姫」
――確かに、童話をモチーフにされたイラスト以外でも何かを組み合わせて描いている作品が多い印象があります。
メルヘンっぽいテイストだけではなく、色んな幅の作品も書きたいということで動物と食べ物を掛け合わせたシリーズも制作しています。どちらも何かフックになるものを1つつけたいなという気持ちは常にあります。
「猫はのみもの」
「カップに入ったハリネズミ」
――他の作品も見てみると、描かれた少女たちは目をつむっていたり無表情だったりが多い気がします。これはあえてそう描いているのでしょうか?
「瓶詰めアリス」
そうですね。モチーフそのものにパワーがあるので、なるべくシンプルでありたいなとは思っています。あとは多くの人に愛されている作品をモチーフにしているものも多いので、そこに寄り添いたいというか。小さいころ両親に読みきかせてもらったみたいな、手に取ってくれた人それぞれが持つ童話に対する思い出であったり、好きな気持ちであったりの邪魔したらあかんなという気持ちもありますね。みんなの頭の中にある「お姫様」像をくずしたくないんです。描いているのは僕ですが、あくまで「アリス」「白雪姫」「シンデレラ」なので。
――今回のグッとムービーでは、ルイス・キャロル原作の「不思議の国のアリス」を下敷きにして作られた「アリス」を挙げていただきました。「アリス」は佐々木さん自身もよく題材にされていると思いますが、描き出したのは大学時代の先輩がよく描いていたことがきっかけだそうですね
「不思議の国のアリス」自体とても有名なお話なのでもともと軽く触れたことはありましたが、そこまで意識したことはありませんでした。大学で先輩が描いているのを見て自分も興味も持ちだして、アリスに関連する作品をみたりしている時に先輩の手伝いでアリスをテーマにしたイベントに行くことになったんです。手伝っていたら次回から僕も参加させていただけることになって。
――そこからアリスを描く機会が増えていったと
はい。「B-SIDE LABEL」さんで描いたアリスのステッカーがすごく売れたり、また新たなイベントに呼んでいただけるようになったりして……。短期間で次々お話がつながっていったので強い縁を感じています。
――過去には「不思議の国のアリス」のモデルになったアリス・リデルが子供の頃に実際に訪れたお店で、「鏡の国のアリス」にも登場したイギリスの「アリス・ショップ」でも佐々木さんが描いたイラストを使った商品が販売されていたそうですね!
阪急うめだ本店で毎年開催されている「英国とアリス」というイベントに2013年から参加していて、そこの主催者の方に声をかけていただいたんです。「アリス・ショップ」のために限定デザインを描き下ろしました。
英国とアリス2018メインビジュアル
――強い縁を感じるとおっしゃっていましたが、「アリス」は佐々木さんにとってどのような存在ですか?
……どんな存在かは一言では答えられません。過去に球体関節人形のアリスと白うさぎからたくさんのキノコが生えた絵を描いたことがあります。それは「アリス」を養分に生きている自分を自虐した作品で自戒をもって描きました。決して「アリス」がただ「養分」にならないように、また「アリス」にとっていつか僕が養分を吸いとるだけの「キノコ」ではなくなるように、リスペクトを持って活動を続けていけたらと思います。
――最後に、今後挑戦してみたいことなどがあれば教えてください
実は今までそこまで個展や展示会に進んで参加するタイプじゃなかったのですが、5月下旬まで開催していた個展で企画のおもしろさに目覚めたので、コンセプト展示や今まで生み出してきたキャラクターたちを主役した展示など考えてみたいと思っています。 あとはどちらかというと今までは絵ありきの仕事が多かったので、媒体に寄り添ったザ・イラストレーターみたいな仕事にも挑戦していきたいです。その中でいつか不思議の国のアリスっていう物語に恩返しができるようなこともしたいですね。