ヒチコックはサスペンスの盛り上げ方が本当に上手ですよね。主人公の写真家は撮影中の事故で足を骨折し、アパートの部屋から出られない。退屈しのぎに他の住人たちの窓に見える生活や秘め事をこっそりのぞき見る楽しみを見つけます。そして事件らしきものを目撃し……。僕は見るなと言われても「いやいや、ちょっと面白いじゃないですか」とつい物事をのぞいてしまう性格。元々の性分をこの映画が助長したのかもしれません。
ほぼ全編が主人公の部屋で撮影されていますが、構成や空間の見せ方が見事。主人公が観察する行為と「事件」を同時進行させ、観客の心理を巧みに手の上で転がします。僕は狭い空間の中で展開される映画がなぜか好き。落語も高座で噺(はなし)をするのに、色々な世界が頭に浮かびますよね。昔「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」という落語を、僕ら役者5人で舞台化したことがあります。この古典の演目を復活させた落語家の桂米朝師匠は「これだけ労力のかかることをようやったな」と褒めて下さいましたが、公演を見てくれた立川談志さんは「こういうのは1人で演じろ」と。いや、もう舞台化したんですけどって(笑)。自由に想像させる落語の方が優れていると言いたかったのでしょう。
僕は正方形の紙1枚で「顔」を折ったものを「折り顔」と名づけて制作しています。今回は和紙でヒチコックを折りました。大喜利的に言うなら、部屋にしばられた主人公と、切らずに折るだけの折り顔の共通点は「制約」でしょうか。自由であるより、かえって制約が創造性を広げることがあるんだろうと思います。
(聞き手・中村さやか)
![]() 監督=アルフレッド・ヒチコック
脚本=ジョン・マイケル・ヘイズ 原作=ウィリアム・アイリッシュ 製作国=米 出演=ジェームズ・スチュアート、グレース・ケリーほか
まつお・たかし 1960年、神戸市生まれ。大阪芸術大芸術学部デザイン学科卒業。6月に公開された映画「ぶぶ漬けどうどす」に出演。
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