私は食べ物の絵をメインに描いていて、食に関する映画にも興味があったので見てみたんです。
海辺の町の小さなお弁当屋さんで働く元風俗嬢・ちひろが、町の人々と交流し、心を通わせていきます。食がテーマだと思ったら、それ以上に描かれるのは心の交流。良い意味で裏切られました。
初めて「ちひろさん」を見た時、人間関係に悩んでいました。この映画の中にも家族や友人との関係など、多くの問題が出てきます。自分の悩みと重なって、ちひろさんと会話をしているような気分になりました。物語の中で彼女は、風俗のお客さんから「僕たちはみんな、人間っていう箱に入った宇宙人なんだ」と言われたことを思い返します。私たちはみんな違うのに、つい人間というくくりで相手に期待してしまう。でも、来た星が違うから分かり合えなくて当たり前。そのスタンスに心が軽くなりました。現実でも全ての物事が解決するわけではないけど、何かを心のよりどころにして生きている。私の中では、それが「ちひろさん」なのかもしれません。
ちひろを慕う女子高校生・オカジの母の手料理はきれいですが、家庭がぎくしゃくしていて、オカジはつらそうに食べます。でも仲良しの小学生・マコトの家で食べた焼きそばは、母の料理より簡単なものなのに、おいしく感じる。私も食べ物の絵で、美しい絵とおいしそうな絵って違うと思うんです。私は「おいしそう」を目指して描いています。これからは、もっと誰かの食の思い出に結びつき、感情を揺さぶれる絵を描きたい。この映画を見て、そう思いました。
(聞き手・斉藤梨佳)
![]() 監督・共同脚本=今泉力哉
原作=安田弘之 出演=有村架純、豊嶋花、嶋田鉄太ほか
さとう・ゆき 1992年生まれ、宮城県出身。書籍の装画などで活躍。ニベア花王「ニベアクリーム」デザイン缶(2024年)のイラストも担当。
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