描いたのはラストのシーン。自衛隊の「特殊工作員」だった主人公の味沢が、養子として引き取った頼子を背負って演習地を疾走するのですが、追いかけて来る自衛隊員たちと対峙(たいじ)し、装甲車両や歩兵部隊に向かって突撃するところで映画が終わります。その先が描かれていない。でも、満足してしまう作品なんです。
高校生の時に映画館で見たのですが、結末を想像させるという点が面白いと思いました。変にオチをつけて物語を回収されるとかえってつまらなくなる。僕は絵本を作っているので、(受け手側に)想像させるのがいいなと思いました。現代と違ってCGが使えないので、人をたくさん使って人海戦術で画面を埋めている点も好きです。当時の角川映画らしい勢いと楽しさがある。
映画鑑賞が創作活動に与える影響は大きいですね。絵本を手がける際、ストーリーが元々ある場合と、全て自分で作り上げる場合がありますが、いずれにしても「こんな絵があったら面白いな」というシーンを一番最初に描いてから、前後の話をどうつなげるか考えます。ページを開いた瞬間に「おおっ!」という驚きが連続するように工夫したい。
子供たちに向けて、作品に道徳的な意義を込めることもありますが、結局は自分が面白いと思えるものを作っているんですよね。僕の場合、壮大なギャグのように笑えるというのが基本。「一行で済むような内容を、よくもこんな思い切り描いたな」と感じてもらえたらうれしいですね。
(聞き手・大石裕美)
![]() 監督=佐藤純彌
脚本=高田宏治 原作=森村誠一 出演=高倉健、薬師丸ひろ子、中野良子ほか
シゲリカツヒコ 1962年、岐阜県出身。絵本「大名行列」で第67回小学館児童出版文化賞を受賞。今年7月に新刊「つめのくに」(金の星社)を刊行。
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