医師のニーゼが、これから働く精神科病院の扉をたたく場面から物語は始まります。そそり立つ鉄壁の片隅にある厳重な扉は、何十回たたいても誰も出て来ない。彼女の、長く厳しい闘いが始まる予感がしました。
患者に電気ショック療法やロボトミー手術が行われていた1940年代のブラジル。ニーゼは暴力的な治療をはねつけて病室にアトリエを作ります。絵の具と筆で患者に自由に表現させ、閉ざした心を解放していく。次第に感情が豊かになる患者を見て、いつもキリッとした表情のニーゼが見せた笑顔が印象的でした。
予告を見て映画館に足を運んだのは、得るものがあると思ったからでしょうね。もともと絵を描くのが好き。自閉症の作家さんの素晴らしい絵が安く売られていたことに疑問を持ち、障害のあるアーティストの作品もプロデュースしています。2012年からは同じ志の仲間と活動していて、研修でもこの映画を何度か見ました。
情熱だけでは前に進まないので、なぜ「アート」という手段なのかを理解するのが大事。ニーゼは看護師たちと絵を描く場所を準備し、評論家にも働きかけたことで、患者の絵が世間に公開されました。患者の周りにいる人が仕組みを作ることも欠かせない。そのことがよく分かる作品です。
ニーゼのやり方に反対する男性医師に邪魔され、一筋縄ではいかないのもリアルでいい。と思っていたら、映画の最後にニーゼ本人が登場するんです。実話と知ってびっくり。
先駆者がいたことに、勇気とアートを信じる力をもらいました。芸術や医療、教育関係者にも見てもらいたいですね。
(聞き手・増田裕子)
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監督・脚本=ホベルト・ベリネール
製作国=ブラジル
出演=グロリア・ピレス、シモーネ・マゼール、ジュリオ・アドリアォンほか
あずま・ちづる 広島県出身。エンタメを通じて誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指す「Get in touch」代表。出演映画「愛のごとく」が公開予定。
「Get in touch」ホームページ:https://pencilshiroi.jimdofree.com/ 出演映画「愛のごとく」公式サイト:https://www.legendpictures.co.jp/movie/ainogotoku/ |