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徳持耕一郎さん(造形作家)
「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)

探究心の原点 僕を鼓舞しつづける歌

 初めての海外は、欧州への貧乏旅行でした。当時、僕はアートへの情熱が抑えきれず、鳥取大学工学部を中退。東京の専門学校で版画をイチから学んでいましたが、若さゆえの焦りがありました。とにかく歴史ある地の芸術や文化に触れたくて、フランスやイタリアなどを巡ろうと、夏休みに取るものも取りあえず旅立ったのです。

 オーストリア・ザルツブルクは、このミュージカル作品の舞台です。主人公マリア(ジュリー・アンドリュース)が過ごした修道院が残っていました。陰影の深い、これはスケッチせねば、と感じさせる建造物でした。

 マリアは妻を亡くして7人の子を育てるトラップ大佐(クリストファー・プラマー)の家の家庭教師になります。ナチス台頭の危機のなか、マリアらは力を合わせて生きてゆきます。緑豊かな風景や「ドレミの歌」「エーデルワイス」を思い浮かべる人も多いでしょう。「私のお気に入り」は雷を怖がる子どもたちをマリアが励ます歌でした。後にジャズの巨匠ジョン・コルトレーンの名演で知られるようになります。

 僕は東京のデザイン会社で修業後、鳥取に帰郷。デザイン事務所を営む一方、自分なりの表現を追求してきました。ジャズの天衣無縫なスタイルにほれ、ジャズミュージシャン像を鉄筋などで表現する「鉄筋彫刻」という手法を編み出し、かれこれ33年間、打ち込んでいます。

 探究心の原点は、欧州に飛び出した旅にあります。あの旅路とつながる「サウンド・オブ・ミュージック」の世界、そして「私のお気に入り」の染みいるような響きは、今も僕を鼓舞しつづけています。

(聞き手・木元健二)

 

  
   監督=ロバート・ワイズ   

 製作国=米国

 出演=ジュリー・アンドリュース、クリストファー・プラマーほか

 

 とくもち・こういちろう  1957年生まれ。「鉄筋彫刻」のほか銅版画にも取り組む。日野皓正らジャズミュージシャンをはじめ、浮世絵の世界も描く。
 
(2026年2月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)