この作品はなるべく予備知識なしに見るのが面白い。ざっくり言うと、本木さん演じる主人公が人質を取って銀行強盗をするんですね。見終わって宮部みゆきさんに面白かったと言ったら、原作は小説新潮新人賞を取った作品だと教えてくれて、選考委員の筒井康隆さんと井上ひさしさんが大絶賛していました。原作のある映画はたいてい原作に負けるんですが、これは原作も映画も傑作。監督の第1回作品で力も入っていたと思います。
冒頭、阪神ファンの親父(おやじ)が無銭飲食をして捕まりますが、映画がつくられたのが1991年。その年というのが重要で、87年から91年まで5年間にわたって最下位か5位という阪神タイガースの暗黒時代なんですね。無念をしょって現れる「報われない現実」の象徴があの親父で、自分たちの上にある権力に対して、フィクションが過酷な現実に敵討ちをするという、監督の意図があるわけです。
真面目で融通の利かない主人公は、本木さん以外に誰ができるだろうというくらい見事です。リポーター役の萩原さんも、県警本部長役の石橋さんも怪演でキャスティングが素晴らしい。TV中継を見て女子高校生が犯行現場に電話をかけてきたり、見物の屋台がどんどん出て来たりとか、群衆の描き方も映画ならでは。気になるところは少しありますが、こうなるとは思わなかったという展開で、これは見てもうけたなあという映画でした。
題名の「遊びの時間」ということから、フィクションのピストルを子どもの頃を思い出して作りました。遊びは真剣にやらないとつまらないものです。この映画は真剣にそういう遊びをやってしまった人間の物語。何が語られるかぜひ見ていただけたらと思います。
(聞き手・清水真穂実)
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監督=萩庭貞明
脚本=斉藤ひろし 原作=都井邦彦 出演=本木雅弘、石橋蓮司、西川忠志、萩原流行ほか
きたむら・かおる 1949年、埼玉県生まれ。2009年に「鷺(さぎ)と雪」で直木賞、23年に泉鏡花文学賞を受賞の「水 本の小説」新潮文庫版を3月末刊行。
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