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鈴木英人さん(イラストレーター)
「ファミリー・ツリー」(2011年)

緩やかな家族のつながりに共感

 鈴木英人さん「ファミリー・ツリー」(2011年)

 

 録画した映画を流しながら仕事をすることが多いんです。映画って普段見られないものが見られて疑似体験できるから、イラストのヒントがいっぱいある。これはハワイが舞台になっていて、ロケーションを見ているだけでもいいし、音楽もいいんですよ。

 ジョージ・クルーニー演じる弁護士のマットは、妻がボート事故で意識不明になったことをきっかけに妻の浮気を知ってしまう。娘たちとその浮気相手を捜しに行くんだけど、仕事に明け暮れて家庭を顧みなかったマットは娘たちにタジタジ。そんなかっこよくない役を二枚目役が多いクルーニーが上手にやっている。人間味がすごく出ていて驚きました。

 身に迫るように感じる物語ですね。浮気を知ったマットは目を覚まさない妻に向かって自分の気持ちをぶちまける。普段は家族にすら出せない感情をむき出しにしていて、見ていると吸い込まれてしまいます。僕らの世代になると非常によく分かるんじゃないかな。自分と重ねられるリアリティーがある。

 「家族は群島と同じだ。全体で一つだが個々は独立し、少しずつ離れていく」。寮で暮らす長女を迎えにハワイ島へ飛行機で向かう場面で、マットが窓の外を見ながら心の中でつぶやく。共感しましたね。映画の原題「The Descendants」は子孫って意味。子どもは別れていって独立していく。血のつながりって、そんな緩やかなものなんだと思います。

聞き手・岩本恵美

 

  監督・共同脚本=アレクサンダー・ペイン
   製作=米
   出演=ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリーほか
すずき・えいじん
 1948年生まれ。山下達郎のレコードジャケットや雑誌「FMステーション」のカバーデザインなどを手がける。
(2014年8月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)