アンドレセン演じる少年タジオの圧倒的な美しさの前に、もう本当は言葉はいらないんです。鋭い目線が放つ、こびない美。魔力も破壊力もある。近づいちゃいけない危険さもあるけれど、あらがえない。神々しいんですよね。撮影時の一瞬の美をとらえた映画なんだと思います。
ボガード演じる作曲家とベネチアで同宿した折、すれ違いざま、タジオが意味ありげにほほ笑むシーン。複雑で残酷な笑み。作曲家の努力による芸術は、神から全てを与えられた完全な美の前で木っ端みじんになってしまう。
作曲家の回想場面はセリフが多いのに、タジオの場面では余計な言葉がない。ピアノを弾くタジオと、売春宿でピアノを弾く娼婦(しょうふ)。高級ホテルでぜいたくに過ごすタジオの母ら貴族たちと、ホテルを訪れる下卑た大道芸人たち。様々な対比が、タジオの美を際立たせていく。
1970年代には美しいものがたくさん生まれました。漫画「ベルサイユのばら」のオスカルやロックバンドのクイーン……。この流れの元にタジオがいる。女性を魅了し続け、今のボーイズラブ文化にもつながっているんじゃないかな。
映画制作を志した80年代、日本でインテリのシネフィル(映画通)なら、ヌーベルバーグの旗手ゴダールが最高と言わなければならない雰囲気がありました。心の中で「タジオ、最高」と思っても、少し目を伏せて「ゴダールがいいです」って。偏見ですよね。
こういう美の再現に、映像作家として駆り立てられてきました。身を滅ぼす覚悟がないと究極の美に出会うのは無理なのかも。少なくとも、私自身、その心意気は持っています。
(聞き手・米原範彦)
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監督=ルキノ・ビスコンティ
製作国=伊仏米 出演=ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン、シルバーナ・マンガーノほか
てらしま・まり 大阪府出身。「実験映画」のジャンルで長年活動。新作「EXPO’70前衛の記憶~アコを探して」は大阪・関西万博でも上映された。
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