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ジャスミン・ギュさん(漫画家)
「onceダブリンの街角で」(2006年)

才能届いた瞬間の興奮 自分重ねて

 アイルランドの首都ダブリンを舞台に、ストリートミュージシャンと、その街で花を売っているヒロインが一緒に音楽を作っていく物語です。

 最初は音楽映画としておもしろく見たんですが、私が漫画家としてデビューしてからもう一度見て、ものすごく好きになりました。

 好きな場面は、主人公が銀行で融資を申し込むシーンや、レコーディングスタジオのエンジニアとのシーンです。売れないミュージシャンだろうな、という感じで、相手の表情も態度も良くない。音楽を聴かせて2人とも心が動いて、表情も態度も変わっていく。私が昔、漫画の持ち込みをしていた時代を思い出しました。

 自分の原稿を持って、いろいろな出版社を回るんですね。一日に何人もの新人の原稿を見る編集者もいて、ほとんどの人が結構疲れている感じで。それが、作品を見て編集者の表情が変わる瞬間があるんです。その瞬間は本当に緊張していて、何か興奮でもあるその感覚が、映画のシーンとリンクして昔を思い出しました。

 この映画は音楽映画であるのと同時に、誰かの才能が初めて誰かに届く瞬間を描いた作品だと思います。そのシーンが満遍なく出てくるんです。最初、ヒロインが彼の曲を聴いた瞬間、銀行の人が聴く瞬間、レコーディングスタジオのエンジニアが聴く瞬間。最後にお父さんが聴く瞬間。その瞬間が私はこの映画の醍醐味(だいごみ)だと思います。

 自分も作品をひとに見せる仕事なので、喜びや応援してもらう気持ちを忘れないようにしよう、一人ひとり、ちゃんと読んでくださっている人たちがいることを大事に心に持って描こうと思いました。

(聞き手・鈴木芳美)

 

  
   監督・脚本=ジョン・カーニー   

 製作国=アイルランド

 出演=グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロバほか

 

 講談社週刊ヤングマガジンで「ケンシロウによろしく」を2020~23年に連載。同誌で15~18年に「Back Street Girls」を連載。
 
(2026年7月3日、朝日新聞掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)