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李鳳宇さん(映画プロデューサー)
「蒲田行進曲」(1982年)

涙さそう不条理 人間にしか書けない

 AI(人工知能)の進化により70%の職業がなくなるというネット記事を読んで、ぼんやり俳優平田満の顔が浮かびました。

 映画の原作となった小説「蒲田行進曲」にこんなくだりがあります。「昔、腕時計したまんま刀ぬいて立ち回りやった大部屋さんがいて、編集の段階で大騒動になり、その大部屋さんは首つったって話があるんだ」「わかるよ。撮り直しってことになって、場面(シーン)しだいじゃ四、五十人からのスタッフと(略)スターさんたちのスケジュール調整のこと考えたら、首くくりたくもなるよ」

 つかこうへいの真骨頂のセリフだが、いまじゃあAIを駆使するまでもなく、腕時計なんてCGで瞬時に消せるし、立ち回りの大部屋俳優を増やすことさえできる。これからの映画業界で効率的に予算を削減する方法はAIの導入でしょう。でも、AIに「銀ちゃん」や「ヤス」は作り出せるのか?

 憧れのスターの銀ちゃんのため、平田が演じる大部屋俳優のヤスは、銀ちゃんの子を身ごもった小夏と結婚し、事情を隠したまま田舎でど派手な結婚式まで挙げる。その夜、察したヤスの母は小夏に「(ヤスは)そげん甲斐性(かいしょう)のある男やないけん」「見捨てんとってね」と哀願する。

 こんなにも滑稽で不条理な展開をAIは書かない。人間はこの残酷なシーンに感動して泣くことが出来る。映画のクライマックス、ヤスは銀ちゃんのアップを引き立てるために「階段落ち」の決死のシーンに挑むが、ラストの驚くような展開もAIには決して書けないでしょう。

 これからも繰り返しこの映画を見るでしょうが、それはシュールで不条理な物語こそが、人間に希望を与えると信じるからです。

(聞き手・阿部毅)

 

  
   監督=深作欣二   

 原作・脚本=つかこうへい

 製作=角川春樹

 出演=松坂慶子、風間杜夫、平田満、高見知佳、蟹江敬三など

 

 リ・ボンウ 映画プロデューサー。「シュリ」などを配給して韓国映画ブームの火付け役に。映画「パッチギ!」「フラガール」などの話題作を製作。
 
(2026年9月4日、朝日新聞掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)