ホラー映画は苦手で、ほとんど見ないんです。でも小林正樹監督の「怪談」は別。怖いよりも全編が美しくてうっとりします。美しいものに触れたくなったとき、見返す映画なんです。
もともと日本映画、とりわけ時代劇が好きです。手当たり次第に見ていた中で偶然出会い、衝撃を受けました。カラーなのにギトギトしていなくて。水墨画にほんの少し色を差したような独特の色彩。空さえも一枚の絵のようで、「こんな表現があるのか」と驚きました。
映画はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の『怪談』などをもとにした四つの物語から成るオムニバス。『耳無し芳一』が有名ですが、私は1編目の『黒髪』がいちばん好き。
出世のために妻を捨てた男が後年、元の家へ戻ったとき、女は恨み言ひとつ口にせず、優しく男を受け入れ、寄り添う。そして最後に地獄を見せる。その静けさが怖いんです。
若い頃はただ「怖い」だけでしたが、今は女性側の気持ちを考えてしまいます。男を待ち続けた時間や苦しみを想像すると、「やりすぎだ」とは思えなくなりました。
自分が漫画を描くときは「雪女」の一場面が頭に浮かびます。雪女が家に迎え入れられ、足を洗う所作だけを丁寧に映し出すシーン。ストーリー上はなくても成立する場面ですが、角度も動きも全部美しい。つやっぽいけれど生々しすぎない。
この作品は説明が少ないんです。音楽も必要以上に感情を盛り上げない。その「間」の取り方が素晴らしい。漫画でもつい説明したくなりますが、もっと「無音」を信じていいんだなと思わせてくれます。
(聞き手・朴琴順)
|
監督=小林正樹
製作国=日本 出演=新珠三千代、三国連太郎、仲代達矢、岸恵子ほか
ながた・きつねこ 漫画家。東京都生まれ。アニメ『劇場版モノノ怪 唐傘』のキャラクターデザインや、小説の漫画化(コミカライズ)も手がける。
|