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米澤よう子さん(イラストレーター)
「猫が行方不明」(1996年)

人がつながる、それがパリ

 宮崎あぐりさん「ロック、ストック&トゥ―・スモーキング・バレルズ」(1998年)

 

 この作品には、皆さんが美化するきらびやかなパリは出て来ないので、がっかりされるかもしれません。でも、これが一番パリらしいヒューマンドラマだと思っています。

 主人公クロエの周りには、おばあさんグループや、同性愛者、コミュニケーションがうまく取れない人など色々なキャラクターが登場しますが、差別はしない。お互いを理解して、丁寧に関わり合っている様子が描かれています。

 クロエは、バカンスを取るために愛猫グリグリを、近所のルネおばあちゃんに預けます。帰って来ると、グリグリは行方不明に。それからご近所中を巻き込んで「捜索」が始まります。

 みんな猫を探してくれるのですが「猫が居なくなって、クロエは大丈夫?」と飼い主の心労を、まず第一に気遣っているのが分かってきます。猫がキーワードなのに、大切なのは人間なんです。いつも不安顔で自信の無いクロエが街角に目をやって、ふっと優しい表情になるシーンが好き。パリの街を歩いていると、そういうことがよくあるんですよ。

 イラストレーターとして駆け出しの頃は「人と違う絵を描こう」と、他人からの目をいつも気にしていました。でもこの作品を何回も見て、2004年から4年間パリに実際に住んで変わりました。素のままの自分で大丈夫なんだということに気がついて、生き方もイラストも自然なものになっていったのです。

聞き手・西村和美

 

  監督=セドリック・クラピッシュ
   製作=仏
   出演=ギャランス・クラベル、ロマン・デュリスほか
よねざわ・ようこ
 1965年生まれ。パリジェンヌの生活やファッションを紹介する書籍が好評。近著に「大人のパリ流定番おしゃれ」(宝島社)。
(2014年8月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)