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舘鼻則孝さん(ファッションデザイナー)
「Dolls(ドールズ)」(2002年)

悲恋、ふたりは人形のように

 舘鼻則孝さん(ファッションデザイナー)「Dolls(ドールズ)」(2002年)

 

 現実世界を人形劇にしたのが文楽ですが、「ドールズ」はその文楽の世界を現在に焼き直している。だから、腰に回した1本の赤いひもでお互いをつなげた男女が放浪する姿はちょっと現実離れしています。でも、そこに至ったいきさつはリアル。恋人の松本に一方的に婚約を破棄され自殺を図った佐和子が心を病んでしまうなんて、実際にありそう。さまよい歩くふたりが人形のように見える場面も出てきて感覚的に新しかったなあ。

 他にも2組の男女が登場しますが、人を無垢(むく)に愛することが、いかに酷で痛々しいかということを容赦なく見せつけられます。顔を負傷して芸能界を引退したアイドルを思い、自分の目を切ってしまう追っかけの男。ヤクザの親分になった昔の恋人を毎週土曜日、公園のベンチでお弁当を持って待つ女性。暴力的なシーンは一切ないのに、衝撃を受けます。

 きれいすぎる映画は好きじゃない。でも、この作品に限っては、久石譲さんの音楽や山本耀司さんの衣装も、きれいであればあるほどシーンの残酷さを際立たせるから構わないんです。

 ヤクザの親分を狙う男が銃を構えた瞬間、川に紅葉が流れる場面になる。間のアクションを想像させる撮り方も日本的でおもしろい。万人に平等なはずの時間を速くなったり遅くなったり感じさせる「たけしタイム」に引き込まれます。佐和子が一心に吹いていた吹き上げパイプの残骸や作品に流れる時間のイメージを絵にしました。

聞き手・東芙美

 

  監督・脚本=北野武
   衣装=山本耀司
   音楽=久石譲
   出演=菅野美穂、西島秀俊、三橋達也、松原智恵子、深田恭子ほか
たてはな・のりたか
 レディー・ガガのヒールレスシューズを制作。10月5日まで東京・六本木の21_21DESIGN SIGHT「イメージメーカー展」に出展。
(2014年10月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)