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僕の絵のテーマは、懐かしさと別世界感。二つの要素は相反するようですが、日常を忘れて心安らげる作品を目指しているんです。この映画の舞台であるイタリアの村も、実際には行ったことがないのに郷愁を感じ、温かい涙を誘います。
少年トトは映写技師アルフレードに影響を受け、映画館パラダイス座に通います。窓から広場に映画を映写するシーンは、2人の関係が最もいいとき。夜の屋外での上映会はファンタジックです。
成長したトトはアルフレードに鼓舞されて村を出ることを決意。その姿が、公開当時イラストレーターから画家に転身した自らの境遇と重なりました。
駅での見送りの場面では登場人物それぞれの愛情表現が印象的です。元気に手を振る神父と妹、じっと見つめる母、そして「帰ってくるな」「私たちを忘れろ」と言うアルフレード。僕の父も、僕が帰省すると不機嫌そうにしていました。すると母が「あれは照れ隠しだよ」って。愛情の裏返しを思い出します。
やがてトトは映画監督として成功。アルフレードの葬儀のため数十年ぶりに帰郷すると彼がトトのためにつないだフィルムが残されていました。あふれる愛情にボロボロと泣いてしまいます。
トトのかつての恋人とのエピソードを加えた完全版もありますが、僕はアルフレードとの関係に焦点をしぼった公開当時の方が好きですね。不器用でかっこ悪い感情表現の中にこそ、際だつ優しさがあると思いました。
聞き手・中村和歌菜
監督・脚本=ジュゼッペ・トルナトーレ
製作=伊・仏
出演=フィリップ・ノワレ、ジャック・ペランほか ささくら・てっぺい
1954年生まれ。近著に「笹倉鉄平 ヨーロッパ 旅の画集」(求龍堂)など。10月20日まで東急百貨店吉祥寺店で個展を開催中。 |