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映画は基本的に深く考えさせられるものが好き。僕が思っていることを、絵と形と音楽と動きで表現しているものに引かれるね。僕はね、人間の暗部、深み、生と死をメルヘンチックに表現したいと思って絵本作家をやっている。それをこの作品は映画でやっているんですよ。
20世紀初頭のアメリカ中西部の農場で、リチャード・ギア演じるビルは妹のリンダと恋人のアビーと共に麦刈りの仕事にありつく。そして、アビーを妹だと偽って農場主と結婚させて財産を乗っ取ろうとする。罪を犯そうというビルとアビーなんだけども、映画の語り手であるリンダという少女の視点と壮大な農園風景の中で「悪」が消えちゃうんだよね。
少女って夢の中に生きているようなもの。だから、色んな大人の出来事が夢の世界、神話的な世界になってメルヘンに見えるんだよね。良い悪いって判断しない。ただ全体を見ているだけ。だから「神の目」とも言える。この視点には驚いた。
それと広大な麦畑に囲まれた丘の上にぽつんと農場主のお屋敷が建っている画面。これが僕の好み。たいていの人は寂しそうって思うのかもしれないけど。僕自身この世界にぽつんと存在しているわけで、こういう風景を見ると天と地に守られているって逆に思う。人間界の出来事も全て天と地の間で起こっているっていう、僕の中にあるイメージがこの風景で表現されているんです。
聞き手・岩本恵美
監督・脚本=テレンス・マリック
製作=米
出演=リチャード・ギア、ブルック・アダムス、サム・シェパードほか よう・しょうめい
1946年生まれ。代表作に「風とひょう」など。11月21日まで北鎌倉・葉祥明美術館で絵本「空気さんありがとう」原画展を開催。 |