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森本千絵さん(アートディレクター)
「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)

戦争の影に照らした一家の歌声

 森本千絵さん(アートディレクター)「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)

 

 小さい頃、大人になったら映画のマリア先生のようになりたかったんです。ジュリー・アンドリュースの演技に魅せられて、本当にこういう人がいると思ったから。舞台となったオーストリアにわざわざ訪れたほどです。

 ナチスの台頭で戦争に向かっていたザルツブルク。妻を亡くした退役軍人トラップ大佐と7人の子供たちの一家に、修道院から家庭教師としてマリアがやってきます。つらいことや苦手なこと全てを、マリアは歌に変えてメッセージを送り、家族の心を動かしていきます。

 たとえば、雷の音におびえて部屋に集まってきた子どもたちに「マイ・フェイバリット・シングス」を歌い、初めて子どもたちと心が通じ合う場面。「泣きたい時は楽しいことを考えるのよ」と、こうしたいと願う心の声を一つひとつメロディーにのせます。感情を音楽に変えていく過程が丁寧に描かれています。

亡命の途中、一家はナチスの武装組織に追われます。銃を向ける隊員に大佐は「君はまだ若い」「彼らに加わってはいけない」と、一歩踏み込んで言います。歌と笑顔と、色と楽しさでさらっと見せているけれど、結構深いんですよね。

マリアは歌で家族に伝えていることだけど、私は絵を描くことや企画することで、七色が広がるみたいに、誰かの光のような存在になりたい。いつかは、映画を作りたいと思います。音と景色と時間、時空……。まるで神様みたいなことじゃないですか!

聞き手・石井広子

 

  監督=ロバート・ワイズ
   脚本=アーネスト・リーマン
   製作=米
   出演=クリストファー・プラマーほか
もりもと・ちえ
 1976年青森県生まれ。企業広告のほか、保育園、動物園の空間デザイン、ミュージシャンのアートワークも手がける。
(2014年10月31日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)