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初めて見たのは子どものころ。「人間失格」とか「人間の証明」とか、若いころって「人間」ってつくタイトルに関心を持ちますやん。全6部の計9時間以上をすべて見てはないんやろうけど、3部の田中邦衛さん演じる新兵が古兵からのいじめの末に自殺するシーンだけはなぜか覚えとったんですよ。大西巨人さんの小説「神聖喜劇」を漫画にして当時の日本の軍隊のことをよう知ってからは、階級や敬礼などの描き方に間違いがないか探すように見るようになってしもうてね。さすがに正確なんやけど。
舞台は日本敗戦直前の満州。南満州鉄鋼会社調査部に勤める主人公の梶は、鉱山で働く中国人の労務管理に出されたのち、関東軍に召集される。軍国主義に立ち向かう梶のヒューマニズムを描いたこの作品には、エンターテインメントとしての映画に必要な要素がみんな入っていると思う。戦争、正義、友情、愛情、あだ討ち……。
中でも戦争という過酷な状況だからこそ、梶の正義感や、徴兵で離ればなれになった妻の美千子を追い求める力強さが誇張されるんやろね。ソ連軍の抑留から逃れた梶が美千子に会いたい一心で大陸を放浪する姿は、目が離せへん。
戦争って、怖いもの見たさで興味を持つけども人間の命に関わる極限。梶みたいに人間性は変わらないでいられたらええなとは思うけど、とてもできへん。そやから梶をヒーロー視できて感動できるんやと思いますね。
聞き手・岩本恵美
監督=小林正樹
原作=五味川純平
出演=仲代達矢、新珠三千代、佐田啓二、有馬稲子、淡島千景ほか のぞえ・のぶひさ
1949年生まれ。大西巨人の小説「神聖喜劇」を10年間かけて漫画化。2007年、同作で手塚治虫文化賞新生賞を受賞。 |