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映画監督を目指して働き始めた頃に見ました。20歳くらいです。映画の演出って、こういうことなんだと衝撃でした。
禁酒法下の1920年代。米東部の街で暗躍するアイルランド系とイタリア系ギャングの抗争を描いたコーエン兄弟の作品です。アイルランド系の一味だったトムは、ある女性をめぐる問題でイタリア側に寝返る。そして、ボスから忠誠心の証しに裏切り者バーニーを始末するよう命じられ、「ミラーズ・クロッシング」と呼ばれる森の中の処刑場に向かいます。
紅葉した木々に、どんよりと暗い空。色彩にあふれ、まるで一枚の絵のように美しい。それに反して、どこか寒々とした雰囲気は、「処刑」に行くトムの感情を表しているようです。きれいなものを、これほどまで恐ろしく撮るのか。いつか自分もこんな型にはまらない演出をしてやると強く意識しました。
しかし、現実の仕事はロケ地探しや弁当の手配など、雑用ばかりでうまくいかない。コーエン兄弟の作品もそうです。個性的な登場人物に翻弄(ほんろう)されっぱなしで、決して思い通りの展開にはならない。でも、最後は「これで良かったかな」と何となく納得してしまう。人生もそんなものだと思います。
20年以上も映像の現場にいますが、これほどの作品をつくれていません。だから、この作品に「お前、何をやっているんだよ」って戒められているような気分です。
聞き手・永井美帆
監督=ジョエル・コーエン
共同脚本=ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作=米 出演=ガブリエル・バーンほか ふろっぐまん
代表作にアニメ「秘密結社 鷹の爪」シリーズ。来年5月、監督を務める映画「天才バカヴォン 蘇るフランダースの犬」が公開予定。 |