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え・杉浦さやか |
映画を見たのは30代半ばの恋愛迷走期まっただ中。記憶から消したいようなこともあり、最初は映画に出てくる「記憶除去装置がほしい!」と興奮しました。
気分屋で情緒不安定な書店員の女性クレメンタインが、無口で不器用な会社員の恋人ジョエルに嫌気がさし、記憶除去専門医院で、彼との記憶を消してしまいます。それを知って、ショックを受けたジョエルは、自分も彼女の記憶を消そうと、同じ医院で除去を試みる。
しかし、除去作業中に、ジョエルの脳内で真冬の凍結したチャールズ川のデートなどふたりの大切な思い出がよみがえります。記憶を消したくない思いが脳内にわき上がり、彼女を連れて夢の中で逃避行を始める。実像と虚像、現在と過去が入り交じったユニークな作り。ふたりの性格が正反対で、ケンカの場面も多いけれど、切なくて美しい思い出を追体験できるのがいいですね。
映画を見たあと、しんどかった自分の恋愛の記憶もひっくるめて「これでいいんだ」と思えたのがうれしかった。その後、自分のように、恋愛で悩んでいる人のヒントになればと思い、「婚活」がテーマのイラストエッセーを連載。うまくいかないのは、ぴったりの人に出会えないからではなく、どんな人が自分に合うのかがわかっていないからだ、という答えに行き着きました。それは、消したいような過去があったおかげ。出会いや人を好きになることのいとおしさを気づかせてくれました。
聞き手・佐藤直子
監督=ミシェル・ゴンドリー
製作=米
出演=ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、キルスティン・ダンストほか すぎうら・さやか
1971年生まれ。著書にイラストエッセー集の「レンアイ滝修行」(祥伝社)、「うれしいおくりもの」(池田書店)など。 |