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映画における衣装って大事なもの。市川崑監督の作品は、それを実にうまく使い、映像がグラフィカルなんですよ。
文豪・谷崎潤一郎の代表作「細雪(ささめゆき)」が原作。1938(昭和13)年、大阪・船場の旧家を舞台にした4人姉妹の物語です。三女雪子(吉永小百合)の縁談のため、エリートサラリーマンの妻である長女鶴子(岸恵子)と次女幸子(佐久間良子)が奔走します。一方、人形作家の四女妙子(古手川祐子)は、貴金属商の放蕩(ほうとう)息子やカメラマンの男との恋愛に溺れ、何度も問題を起こしていく。
雪子は一番おしとやかに見えて、しっかり者。実業家、公務員との縁談を次々に断ってはお見合いを重ねる。華族との結婚が決まった暁には「粘りはったな」と姉たちから陰口が。愛情と嫌みがありつつ、おかしみもあるのが粋ですね。女同士のやり合いが細かいんです。
4人の性格や暮らしぶり、心象風景を着物で描いた、贅(ぜい)を尽くした作品です。襟の合わせ方や帯締め帯揚げの選び方で、個性を繊細に表している。幸子が着た羽織は、裏地に真っ赤な紋が染め抜かれていました。好きな場面は、縁談の付き添いに向かう鶴子の着付けを、幸子が手伝うところ。遠くから引いた美しい画角で、艶(なま)めかしさやハレがあります。
桜満開の京都で始まり、雪が舞うシーンで締めくくる。季節を愛(め)でるって、日本人独特の感性でしょうね。それは私のものづくりの主軸でもあり、影響を受けている点です。
聞き手・石井広子
監督=市川崑
衣装=斉藤育子
出演=岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、伊丹十三、石坂浩二ほか まるやま・けいた
「KEITA MARUYAMA」のデザインのほか、JAL客室乗務員の制服、映画や舞台、ライブの衣装制作など多岐にわたる。 |