7月20日開幕のサッカー女子ワールドカップ(W杯)に、主審として参加する山下良美さん(=写真左©JFA/PR)。昨年のW杯カタール大会では史上初の女性審判員の一人に選ばれ、まさに世界中のピッチを駆け回っている山下さんが、ここぞの一品に選んでくれた食べ物は、東京駅構内のお弁当「極上本鮪まぐろづくし6貫」(=同右、つきじ喜代村エキュート東京店)でした。7月20日付け朝日新聞紙面「グッとグルメ」欄に収めきれなかったエピソードをお届けします。
(聞き手・島貫柚子)
――グッとグルメのメニューに、「まぐろづくし6貫」を選んだ理由を教えてください。
試合会場へ向かう時に、東京駅で買って新幹線で食べるんです。何かしながら食べられるのがいいですね。だいたいいつも、携帯片手に明日の試合に関わる映像を流しながら食べています。炭水化物がしっかり取れて、魚のいいタンパク質もあって、ヘルシー。トロみたいに試合前に食べちゃう罪悪感がないのも好きですね。年齢を重ねるにつれて、ケアをより考えるようになりましたが、「まぐろづくし6貫」は勝負前日の夜ご飯にベストだと思っています。
――初めて食べた時のことを教えていただけますか。
友達から「シェアしよう」と誘われたのが最初ですね。6貫のうち3貫だけ食べました。正直に言うと、「全部まぐろか……」って感じであまり気乗りはしなかったんですよ。私は色んなものを少しずつ楽しみたいタイプなんです。幼い頃は回転寿司に行くと、1皿2貫のお寿司を家族とシェアして食べていたぐらい。でも「まぐろづくし」をまさに1貫を食べたら、まぐろの味をすごくしっかり感じました。血の味って言うんですかね、脂身の感じじゃない。赤身の濃厚なうまみが伝わってきて、3貫ペロリと食べてしまいました。
――メニューに挙げて頂いた第2候補はお蕎麦でしたが、和食がお好きなんでしょうか。
そこそこ海外に行く機会があるので、久しぶりに日本に帰ると和食が食べたくなるんです。海外で和食を食べることもありますし、日本からもうどんとか持っていくんですけどね。それでも、帰国すると和食を欲してしまいます。
――海外にいらっしゃる頻度は、どのぐらいでしょうか。
1年のうち3分の1って言ったら多いけれど、5分の1だと言ったら少ないような。今年はたまたま多いですね。7月20日から女子ワールドカップも始まるので。国際大会では何試合か担当するので、2週間の滞在が基本です。
=2022年サッカーW杯カタール大会で、選手たちと記念撮影をする山下さん
食べ方の深掘り
――このままではさび抜きですが、わさびはどうなさいますか?
お寿司食べる人にアレかもしれないんですけど、私わさびが得意じゃなくて。高校生の時のバレンタインに、友達とロシアンルーレットをやったら、わさびがめっちゃ入ったチョコレートを引いてしまって。その日は部活動もあったんですが、辛さと気持ち悪さで大変でしたね……(笑)。それ以来、頼めるならばさび抜きを頼むので、わさびが別添えの「まぐろ6貫」はちょうどいいんです。
――付属のお醤油は、お寿司に垂らしますか?
お寿司の上には垂らさずに、別にしてまぐろに付けるのがこだわりです。
――お寿司をひっくり返して? お刺身だけ取って?
お寿司をひっくり返して付けます。ご飯にお醤油が付くのが好きじゃないんですよね。やっぱりおいしいものは、ベストな状態で食べたい。
――ガリはどのタイミングに?
6貫あるので、途中で1回挟みますね。ずっとおいしいままだと、おいしさが減少するじゃないですか。 何回も挟むんじゃなくて1回だけ。まぐろまぐろまぐろ、ガリ全部、まぐろまぐろまぐろみたいな。
――休憩、ですね!
そうですね! 休憩的な感じですね。でも、まぐろをいったん横に置いて、ガリに浮気しちゃうというか。おいしくて止まらなくなるっていうのも。
――おおー…、そんなにガリがお好きなんですね。
かなり好きなんです。聞かれるとあるものですね。自分の食べ方っていうのが。
食レポをお願いできますか?
――できたら、目の前に「まぐろ6貫」があると想像していただいて、食レポをしていただけないでしょうか。「おいしい」という単語を使わずに。
おお、エアー食レポですか?ちょっと頑張ってみます。
まぐろの色がいいですね。赤い色がおいしそう…さっそくおいしそうって言っちゃった(笑)。
まぐろが端までちゃんとご飯粒とコラボしていて、より食欲を引き立てます。2、3個を食べ進めていくと、若干「慣れ」が出てきちゃうので、そこでガリですね。きゅーっと口の中を締めつつ、ほのかに刺激が残る。さび抜きな私には絶妙なんです。3貫目の後にガリを挟んで、残り3貫は0からまぐろのうまみを楽しみます。
――前半3貫を終えてガリを挟むと、後半前にリフレッシュできるということは、ガリ=サッカーの休憩のようなものでしょうか。
完全にそうですね。前半、ハーフタイム、後半。さあ、また行くぞ!みたいな。まずは45分集中して、休憩、ハーフタイムも大切に使う。ハーフタイムは、後半に向けてのすごく大事な時間なんです。
サッカーについて
――実際のハーフタイムは、何をなさっているんでしょうか。
一番は休憩ですが、後半がよりよくなるように、組んでいる審判チーム内で話をしています。プレイヤーチームと同じですね。
――国内試合、国際試合の違いを教えていただけますか。
環境だけですね。海外に行くと土地によって気温も違いますし、いきなり試合をする場合は時差への対応も求められます。その2つが大きな違いです。
――そのようなギャップに対して、どう適応なさっているんでしょうか。
暑いところに行く場合には、汗腺を開くためにホットヨガに通います。トレーニングする時にすごく着込んで、とにかく汗をかけるような状態にすることも。現地ではお腹を壊すことが怖いので、危ないところでは口を閉じながらシャワー浴びています。辛い刺激物、生野菜を控える、水を口にしないようにする。結構、慎重派ですね。
=2022年サッカーW杯カタール大会で、審判員を務める山下さん
――国際試合の際に、うどんを持って行かれるとか。
そうなんです。去年の1月にインドで開催された女子アジアカップに和食を持って行ったら、すごく良くて。うどん、お餅、おかゆ、そうめん……。そこからハマって、試合前にうどんを食べるのが習慣になりつつあります。フライトによっては、変な時間に現地に着くこともあるので、着いてすぐにお腹を膨らませられるのもいいんですよね。お鍋にもなるケトルを現地に持っていって、重宝しています。
――山下さんは、元々はサッカーのプレイヤーをなさっていたと拝見しました。大学の先輩の誘いで、審判に興味を持ったとのことでしたが?
そうですね。誘い…。無理矢理、です(笑)
――お寿司も審判員も、意外な出会い方をしたものを長く好きになることが?
そうですね。私は自分自身を、他の人が作った流れに乗らないと、うまく生きられないタイプだと思っているんです。実は挑戦が苦手ですし。その分、「こうしよう」って提案されたことを喜んでやってみるのがモットーです。自分の楽しみが広がっていくのは、周りの人たちのおかげですね。本当に感謝しています。
――朝日新聞のデータベースで山下さんのことを調べたところ、「女性で初めて」というワードを度々見かけました。素晴らしいことだと思う反面、まだまだ女性審判員は少数なのだと感じました。この辺りについて、どう感じてらっしゃいますか。
本当にそう思います。私自身、男性がたくさんいる環境で、審判員として活動するとは特に考えていなかったので。でも考えていなかったのと等しく、可能性はあったんだなと。「女性初」と言われることは多いけれど、可能性が転がっていたことに気づかされますし、いまその広がりを実感しています。私自身はこの立場として、いただいている機会を継続させていかなきゃいけない。そのためには、1つ1つの自分がやるべきことを。試合をしっかりやらなきゃいけないと思います。
――最後に、山下さんにとって「まぐろづくし6貫」がどんなものか、教えていただけますか。
私を力づけて、明日戦えそうな気持ちにしてくれるものですね。その瞬間と、次の日に向けてのモチベーションを高めてくれる。緊張感やプレッシャーなどを感じる試合前でも、「まぐろ6貫」が楽しみになっています。
略歴
やました よしみ 1986年、東京都生まれ。都立西高校卒業後、東京学芸大へ。大学の先輩である女子審判員の坊薗真琴さんに誘われ(山下さん曰く「無理矢理」)、審判の大会に行ったのをきっかけに審判資格の取得を始める。2014年まで女子サッカークラブチームで選手として活躍しながら、審判の仕事も行う。15年に国際審判員に登録。19年女子W杯フランス大会で主審として参加。21年、J3リーグでJリーグ初の女性主審を務めた。22年ワールドカップ(W杯)カタール大会で、史上初の女性審判員の一人に選ばれる。今年7月20日開幕の女子W杯でも審判員を務める。
店情報
つきじ喜代村エキュート東京店 東京都千代田区丸の内1の9の1、東京駅構内1階サウスコート(電話03・3211・8985)。1100円。[前]8時~[後]10時([日][祝]は9時)。すしざんまいを経営する喜代村の直営店。「極上本鮪まぐろづくし6貫」は、本まぐろ(クロマグロ)の赤身を使用。シャリは国産米。8貫(1500円)も。
URL https://www.kiyomura.co.jp/store/detail/55