小説家はずっと家でコツコツ仕事をしているので、疲れると、外の空気を吸いに散歩に出かけたくなります。このお店は、東京・日本橋にある小網神社にぶらりと散歩に行ったときに見つけました。カンを働かせ、おいしそうな店を探していたらたどりつきました。
昔の下町の洋食屋さんのような趣のある外観と、こぢんまりとした店内にホッとします。それでいて明治時代から続く高級感もあり、独特な雰囲気をもっているお店です。昔、祖父がやっていたすし屋はまさにこんな感じでした。2階に上がる階段がある造りが同じで、懐かしくなりました。優しいご夫婦が切り盛りしていて、ランチタイム終了間際に入っても「まだ大丈夫ですよ」と迎えてくれるのもうれしかった。
定番のオムライスは昔からずっと親しまれていて、見た目も味もシンプルです。小ぶりのメンチもちょうどいいサイズで、これが草履みたいな大きさだったら自分にはちょっとしんどいかも。
丁寧な仕事ぶりを感じる一皿の上だけでなく、入った瞬間に「このお店は大丈夫だ」という安心感が伝わる。その空気が出せるのが結局プロってことじゃないかと思うんです。食べ物屋さんも小説もそうですが、飽きずに淡々と丁寧に続けるのが、肝心かもしれません。
(聞き手・佐藤直子)
◆東京都中央区日本橋人形町1の17の(☎03・3666・3895)。
昼は(前)11時半~(後)2時、夜は(後)5時~8時。(土)は昼のみ、(日)(祝)休み。
1100円。
いしだ・いら 小説家。1960年生まれ。
代表作に「池袋ウエストゲートパーク」「4TEEN」(直木賞受賞)、近著に「清く貧しく美しく」など。
YouTubeほかで「石田衣良の大人の放課後ラジオ」配信中。