お店との出会いは上京してきてすぐ、18歳のとき。よく利用していた沿線上にあり、ちょっとした自分へのご褒美として、よく通っていました。この味を体験してほしくて母を連れていったこともあります。
それまで僕が知っていたおそばは、関西風のおだしの中に軟らかめの黒い麺が入っているものでした。でもこれは麺が白いんです。そしておつゆが濃くて塩っ辛い。初めて食べたときは、「これが江戸前か」と思いました。のどごしもよく、何よりも麺とつゆのコンビネーションに感動しました。お店のメニューは豊富ですが、必ず天御前を注文します。
おそばには「から汁」「あま汁」のおつゆがついています。僕はまず、から汁のみで食べて、その後、あま汁をちょっと足して楽しみます。最後にそば湯をもらっておつゆを飲む。至福の時間です。
お店には1人で行くときが多いです。昼間だと、僕以外にも1人で召し上がっている方が多くて、その人たちの人生を想像しながら食べるのも面白いんです。
ちょっとぜいたくなお値段かもしれませんが、僕にとってはご褒美飯の一つ。青春時代からのお付き合いなので、懐かしの味でもあります。店舗が減ったとはいえ、変わらずにあることがとてもうれしいです。
(聞き手・中山幸穂)
◆東京都港区麻布十番1の8の7(☎03・3585・1676)。2520円。午前11時~午後8時(平日午後3時~4時半準備中)。営業時間は時期により異なる。原則無休。
ささい・えいすけ 俳優。1958年生まれ、石川県出身。2月11日~24日、東京・池袋の東京芸術劇場で舞台「インヘリタンス―継承―」に出演予定。