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とにかく、この世界を楽しむ能力はあるかも。
レンタルなんもしない人さん

  ”レンタルなんもしない人”こと森本祥司さんが、”なんもしない”を仕事にしたのは2018年6月のことでした。ーー「『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在が必要なシーンでご利用ください。 料金は自由。あと国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。ごく簡単な受け答え以外なんもできかねます。」ーー

 まもなく6年を迎える今、フォロワー数は42.7万人にのぼり、1日あたり2、3件の依頼があるそうです。フォロワーのひとりである記者の私は、まるで人間観察でもするかのように依頼内容を投稿するレンタルさんを見るうちに取材を申し込んでみたいと思うようになりました。「レンタル依頼ではなく取材です」とDMを送ると、「取材の件、OKです」との返信が届き、3月某日に朝日新聞社までお越しいただきました。(聞き手・島貫柚子)

※レンタルなんもしない人さんは4月18日付け朝日新聞夕刊「グッとグルメ」に登場しました。

 

――「存在給」について、レンタルさんの考えを教えてください。

 心屋仁之助さんという心理カウンセラーが「存在給」という概念を自身のブログで提唱していたんです。僕は直感的に、「人間って別に生きてるだけでも暮らしていけて然るべきだよね」という意味だと受け取りました。

 給料というのはお金ですが、「ただ生きているだけでお金もらえますよ」という意味ではなくて、生きるためにすごく頑張って何かしないといけないわけではないはずだ、ご飯を食べさせてもえたり快適な暮らしの環境が保障されているということは特別何か成し遂げて手に入れるものじゃないはずだ、って。エゴかもしれないけど、そうであってほしいと思ったのかもしれません。

 

――「レンタルなんもしない人」の活動を思いついたきっかけは、他人に奢られることで生計を立てているプロ奢ラレヤーさんの存在だそうですね。

 

 そうですね。プロ奢ラレヤーの存在を知って、まさに存在給を体現している人だと思いました。存在給を理想として諦めなくていいんじゃないか、ちゃんと体現できる可能性があるんだと思えたという意味で今の活動の大きなきっかけになりました。2018年6月に活動を始めたので、もうすぐ6年になります。

 

――依頼理由としては、「人に言えない悩みを打ち明ける」「1人で行けない店についてきてほしい」などをよく見かけます。

 その2つが多いですね。

 

――最近受けた依頼のなかで、面白かったものがあれば教えてください。

 話せる範囲で話すと、よくある「ただ話を聞いてほしい」という依頼で、相づちと簡単な受け答えだけしてほしいそうなんです。その依頼者は本来話好きで、すごい喋りたいけど類友らしく、自分が話したいから話そうとすると、「私も!私も!」みたいな感じで、どんどん話題が奪われてしまう。自分が満足のいくところまで話せることはほぼない。だから満足行くまで話しきるために僕が依頼されたんです。

 僕は相づちを打つんですけども、別にちゃんと聞いてなくてもいいらしいんですよ。「聞いてるフリだけしてほしい」。ちゃんと理解してほしいと頼んだら、自分のマシンガントークに遠慮が生まれちゃうんじゃないですかね。バーッと話してしまったら伝わらないかもと不安に思うかもしれない。依頼者はそれすらしたくないんだと思います。「自分のペースで自分の満足行くまで話したい。 聞いてるフリだけしてほしい」。

 この「聞いてるフリ」がどういうことかと言うと、「聞いてるフリだけしてました。聞いてませんでした」と伝えるのはダメなんですよ。あくまで聞きましたということにしてほしい、と。

 

――それは対面の依頼で?

 対面ですね。「聞いてませんでした。あんまりよくわかりませんでしたと感想を言わないでほしい」と言われたのが印象に残りました。今まで明言されたことが実はなかったんですよね。幻想とかファンタジーみたいなものが大事なんだなと知りました。

 

――ご自身でレンタルなんもしない人をレンタルするなら、どんな理由で依頼したいでしょうか。

 ああー……。僕はエアホッケーが好きなので、エアホッケー付き合ってほしい。エアホッケーってあれです。ゲームセンターにあるような。気が済むまでやってみたいですね。友達とかとゲームセンターに行ってもスルーされがちで。

 普通に話を聞いてほしいっていうのもありますね。人生において、いろいろとあったと思うので。あとは、行政手続きがたまに発生しますよね。確定申告とか。あれはなにかとめんどくさいので、モチベーション上げるために同席してほしい。

 あと、「人からすごく薦められたし、自分もちょっと見てみたいけど、なかなか見れてないもの」とかってありますよね。漫画とか映画とか。そういうのがいくつかあるので。それを見るのに同席してほしい。1人だと後回しにしちゃうから、きっかけ作りしたいなと思います。

 これは、今まで僕が受けた依頼をもとにしていますね。似た感じの依頼がいくつかあったので、そこから僕も連想したんだろうなと思います。依頼者の使い方をヒントに。どうせ僕は依頼できないんですけど(笑)

 

――私がもしレンタルさんをレンタルするなら、腰が重いことかもしれません。ジムを契約するとか。

 レンタルさんは、話を話すのと聞くの、どちらがお好きでしょうか。

 聞いている方が楽ですね。だからと言って話すのが嫌というわけでもなくて、こうやって質問されて答えるのは好きなんですよね。 自分が主導権を握った状態で会話を進めるのが苦手なのかもしれない。苦手なことはあんまりしたくないっていうことかもしれないですね。

 

――服装はトレーナーにデニム姿、頭に帽子のスタイルなんでしょうか。

 はい。これもプロ奢ラレヤーさんの影響です。あの方も基本的に毎日同じ格好で、ニット帽を被っているんです。僕はキャップですが、それがアイコン化して世間に広まりやすかったですね。制服なので服装を考えなくていいのも楽だし。

 

――「〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。」の本によると、お仕事には飽きがなく、「受け身のエンタメ感」を楽しんでいるそうですね。

 楽しいですね。みんなが思う「楽しい」とは微妙に違うかもしれません。僕は、ぼーっとしてるだけでも楽しいし、考え事をするのも楽しいし、何も考えずにいるのも楽しいし、人間観察的なことも楽しいし、散歩したりも楽しい。嫌なことさえなければ、この世界を楽しむ能力は他人より高いのかもしれないですね。

 

――依頼されてぼーっとしてる時間は何を考えていますか。

 基本的に何も考えていないですが、たまに頭に湧いた何かについて考えていることもあります。

 

――日当たりで何件ほど依頼があるのでしょうか。

 だいたい2、3件ですね。実際に僕が外に出て依頼者の人と対面するタイプの依頼は2、3件ですが依頼はそうじゃない場合もあるんです。

 

――依頼された言葉をX上のDMで打ち返す、たとえば「ハッピー」「ターン」みたいなタイプですか。

 そうです。Xのメッセージ機能でのやりとりなんかを含めたら、もっと件数は多いと思いますが、それについては数えていないんです。継続的な依頼も結構あるのでDMはマメに見ていますね。

 

 

――私のDMへの返信も素早くいただき、ありがたかったです。別のWEB媒体でのインタビューを拝見したところ、380回ぐらいリピーターしてる人がいると知りました。

 はい。ただそういう方はまれです。

 

――いま現在のレンタル料はおいくらでしょうか。

 初期の頃は無料(交通費と飲食代だけ)と明言していましたが、紆余曲折を経て有料化したタイミングがあります。「1件1万円で」という時期が長かったですね。その後は無料に戻したり、1万円に戻したり、3万円に上げたり。今は「依頼料は自由」と言っています。依頼者の方が払いたい金額を払ってください、と。

 

――1円も支払われない場合も?

 ありますよ。1円の場合もありました。でも、それはそれで面白くて。みんなが面白がって、結局僕はバズって儲かったんですけどね。

 

ーー依頼者の男女比を教えてください。

 女性が多いですね。割合は9:1ぐらいです。

 

――レンタルさんは、カラオケ行くことはありますか。

 自分で行くのはたまにです。依頼中はもちろんいっぱい行くんですけど、だいたい聞いているだけが多いですかね。依頼者の人が、「自分が歌いたい。そこに誰かいてほしい」っていう依頼が多いので。僕も歌った方が、相手が過ごしやすいっていう場合に、たまたま僕が歌えるテンションだったら歌ったりもします。

 

――「スピッツがいかにお好きか語りたいときがある」とか。1番お好きな歌を挙げるなら何でしょうか。

 ええー……。むずいですね。もちろんド世代なので、スピッツが流行った時代を過ごしてきましたし、当時流行っていた「ロビンソン」とか「チェリー」とか有名な曲あるじゃないですか。あれはいい曲だなと思いながら過ごしてきたんですけども、そこはスルーしていて。

 社会人になって先輩の家に遊びに行った時に、先輩がかけていた曲がスピッツで。「スピッツいいですね」って言ったら、その先輩が持っているCDを全部貸してくれて。最初に「うわ!スピッツすご!」ってなったのは「夜を駆ける」です。この曲ではないですが、結婚式のときもスピッツの曲を流しましたね。

 

Profile

レンタルなんもしない人

本名は森本祥司。1983年生。大阪大学大学院を卒業後、教材出版社、フリーライターを経て、「働くことが向いていない」と判明した現在は、現在は自分自身のレンタル業をする。Xは@morimotoshoji。

 

 

▼レンタルなんもしない人さんのグッとグルメはこちらから(配信は4月18日午後4時)

 https://www.asahi-mullion.com/column/article/ggourmet/6032

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