祖父(松本白鸚)も父(松本幸四郎)も高麗屋はみんな甘いもの好き。中でも澤田屋の「くろ玉」は小さい時からの好物で、楽屋へ差し入れにいただくと一人で食べてしまいます。青えんどう豆で作ったうぐいす餡を、黒糖を使ったようかんで包んだ和菓子です。餡には豆の食感があり、しつこくない甘さ。うぐいす餡の爽やかな色もあって、味に重たい印象がなく、一気に5、6個は軽く食べられます。
見た目もつるっと丸くてかわいい。このシンプルな形は職人が手作業で仕上げているそうです。歌舞伎でもシンプルだからこそ難しいと感じる役があります。以前演じた「一本刀土俵入」に登場するやくざの子分・堀下根吉は、すごくシンプルな着流しの衣裳を粋に着こなすのが本当に難しくて。片肌を脱ぐ場面もあり、自分の体一つで美しく見せるにはまだまだだと実感しました。今月は歌舞伎座で光源氏を演じています。若さや強さは残しつつ、柔らかくて角がない人物を演じようと心がけています。
コロナ下で料理に挑戦した時期がありますが、和菓子もいつか作ってみたいとずっと思っているもの。四季を反映する工夫があり、美しいですよね。芸術性があって遊び心も忘れないところは、歌舞伎にも通じるものがあると思うんです。
(聞き手・中村さやか)
◆甲府市中央4の3の24。4個入り691円。オンラインショップや県内のサービスエリア、東京都内を中心とする一部百貨店などで販売。☎055・235・5545。
いちかわ・そめごろう 歌舞伎俳優。2005年東京都生まれ。10月26日まで、東京・銀座の歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」夜の部の「源氏物語」に光源氏役で、六条御息所役の坂東玉三郎らと出演中。