40年前、父が存命の頃、よく買いに行きました。お酒も飲まず、甘いものが好きな父の好物。一度に2、3個は食べていましたが、がんで胃を全摘してから、量をいただくことができなくなってしまいました。
きみしぐれというと、あんを生地で包んだものを想像しますが、秋色庵さんの君時雨は、白あんに卵の黄身を練り込んだ「黄身あん」を蒸したもの。ほろほろと口溶けのいい軽い食感で、たまごボーロを彷彿(ほうふつ)とさせるやさしい甘さ。鮮やかな黄色にも目が行きます。
父が亡くなってからしばらく足が遠のいていましたが、久しぶりに訪れると、当時と全く味が変わっておらず感激しました。それからまた通うようになり、母と伺った際には、当時から切り盛りしている奥さまと再会できました。隣にあった金物屋さんの話などで盛り上がりましたね。
現在は茶歴80年の母と2人暮らし。毎朝、2人分の抹茶を点(た)ててお菓子といただきます。そう言うと皆さん驚かれますが、最近はお点前をしない「点て出し」なので、インスタントコーヒーを入れるよりも簡単です。秋色庵の君時雨は定番のお菓子ですが、春は桜餅、夏の笹(ささ)に包まれた水ようかんもおいしい。季節とともに、お茶碗(ちゃわん)やお菓子の取り合わせを考えるのが楽しみです。
(聞き手・片山知愛)
◆東京都港区三田3の1の9(電話03・3451・7465)。1個350円。午前9時~午後6時。原則日曜、祝日、第1月曜休み(節句、夏季はHPで要確認)。予約可能、生菓子類は発送不可。詳細は公式サイト(https://www.o-sakaya.com/)。
おおさわ・さとり 調香師。フランス調香師協会会員。幼い頃から茶道、華道、長じて香道を学ぶ。2000年に東京・六本木に「パルファンサトリ」をオープン。23年度文化庁長官表彰を受けた。