きっかけは、4年ぐらい前だったかな。「羊肉串が食べたい」って神戸の街で思い立ち、インターネットで検索して最初に目についたのが味香苑さんでした。
初めて食べた時は、これまで味わったことのないおいしさで大当たり。ふわりと柔らかい羊肉(ラム)は串に刺して、7~8種類のスパイスをまぶしながら炭火で焼き上げているのだとか。余分な脂が落ち、意外とあっさりしていて、お肉のうまみと適度な脂分がかむほどに、口いっぱいにバランスよく広がります。炭の香りも感じられ、羊肉特有の臭みはありません。
さらに特徴的なのが自家製「シルクロード香辛料」。唐辛子にクミンシードや白ゴマなどが混ぜ合わされていて、羊肉にまぶしていただくと、不思議な甘みと香りが味を引き立ててくれて食が進みますよ。
神戸の食といえば、中華料理や洋食が代表的ですね。私は取材先で、その土地ならではのお料理をいただく機会が多いのですが、神戸って、得意なジャンルを深くまで極めた店が多くて、東京や大阪では体験できない「偏っていて、トガっている味」を気軽に楽しめるお店が多い気がします。そんな街で唯一無二の羊肉串を提供してくれる味香苑さんの存在に「ありがとう」って伝えたいです。
(聞き手・山崎元子)
◆神戸市中央区北長狭通1の9の10の8階(☎078・321・1228)。1本200円。午後5~11時(ラストオーダー)。月曜休み。テイクアウト可(要問い合わせ)。近くに2号店(火曜休み)がある。
つむら・きくこ 小説家。1978年生まれ、大阪府出身。2005年「マンイーター」(現在は「君は永遠にそいつらより若い」に改題)で第21回太宰治賞を受賞しデビュー。2009年「ポトスライムの舟」で芥川賞。著書に「うそコンシェルジュ」(新潮社)など。