11歳で浪曲師になり、平日は学校、週末は口演という暮らし。ところが大学を卒業して勤めだした時分、いろいろ慌ただしかったのか、これと言った理由なく舞台から遠のきました。
仕事、結婚、子育てと浪曲に思いをはせる間もなく十数年、ある日、テレビから浪曲三味線の音が聞こえてきて、唐突に「し残していることがある」と寂しさが湧きました。稽古してくれる曲師(三味線弾き)を探し、紹介されたのが沢村豊子師匠です。
舞台に戻りたかったけれど、口にする勇気はありません。淡々と稽古する日々が6、7年続き、しびれを切らしたのか、師匠が「あんたの節には情がある。舞台に出た方がいい」と。2013年の正月興行で東京・浅草の木馬亭に復帰しました。「巳年で始めると続くよ」と豊子師匠に励まされて。
そんな「育ての母」と木馬亭の口演のたびに通ったのがサニーです。「ここのオム焼きそば、おいしいよ」と薦めてくれたのも豊子師匠。でも師匠はトーストとコーヒーでしたね。
芸の話なんてせずに師匠の世間話ばかりで、私はひたすら聞き役に徹して。豊子師匠は昨年6月に亡くなりました。オム焼きそばを食べると師匠の止まらないおしゃべりと笑顔を思い出します。

沢村豊子師匠(右)と木村勝千代さん
(聞き手・桝井政則)
◆東京都台東区浅草2の78の13(☎03・3847・0417)。オム焼きそば900円。平日と祝日午前9時~午後5時、土日午前8時~午後5時半。毎週水曜と不定休で木曜休み。

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