さっぱりしているけれど深みがあり、軟らかいけれど適度な硬さもある。一見、淡泊のようだけれども深い愛情のある、大好きな父のような存在のラーメンです。
昨年5月に、私の師匠である実の父が急逝しました。いまだに信じたくない気持ちがあふれています。20歳のころ、照れ屋の父に内緒で父の講談をこっそりと聴きに行き、その姿を見て講談師の道に入門しました。父は講談一筋で、幼い頃から家族での遠出はほとんどしませんでしたが、外食はよく連れて行ってくれました。「行くか」と声がかかるのを今か今かと待っていたのを覚えています。最も好きだったのが、私が生まれた東京・笹塚にある喜多方ラーメン坂内です。
食が細かった私は、なかなか一杯を食べきることができませんでした。初めて完食した時、普段はあまり笑わなかった父がニコーッと笑って「おぅ、偉いな」と喜んでくれたのを今でも覚えています。
もう師父には、講談の中でしか会うことができません。講談に復帰する前に一杯の喜多方ラーメンを頂き、温まって前を向き、それから講談道を真っすぐ進んでいこうと思っております。
◆笹塚店 東京都渋谷区笹塚1の59の7の101(電話03・5350・4015)。
720円。
午前11時~当面午後9時(営業時間は要確認)。(月)休み。
14都府県、海外に系列店がある。公式ホームページで通販も。
いちりゅうさい・ていきょう
講談師。父は八代目一龍斎貞山、祖父はその七代目。2008年に入門、12年に二つ目昇進。活動情報は、公式ホームペ-ジ(www.teikyo-ichiryusai.jp)で公開。