2007年に小説現代長編新人賞を受賞し作家としてデビューする前、神田に10年ほど勤めていた時に、よく足を運んでいたお店です。神田にひしめく、おいしい店の中でも、明治17年創業の「まつや」は店構えからして別格です。
一番のお気に入りは、つゆに入ったゴマの味が香ばしい「ごまそば」。まるで「魔法のつゆ」とでも呼びたくなるくらい、ゴマのコクを生かしながら、さらり、すっきりとした味わいで、いくらでもそばが進みます。そばを食べ終えた後、締めにいただくそば湯を入れたつゆは、だしの風味がより強く感じられるので、おすすめです。
昔の江戸っ子は、濃厚な脂の乗ったマグロより、さっぱりとした味のカツオを好んでいたようです。「まつや」の味わいも、きっとそんな江戸っ子の好みに合わせたものなのでしょう。店に通っていた当時、すでにこっそり時代小説を書きためていた私は、そう納得していました。
また、どこか江戸時代の雰囲気を感じさせる「まつや」の店構えや店内の雰囲気は、江戸を舞台にした時代小説「鯖猫長屋ふしぎ草紙」に登場する、居酒屋のお手本にしています。
◆本店 東京都千代田区神田須田町1の13(お問い合わせは03・3251・1556)。
935円。
午前11時~午後8時半(土曜・祝日は7時半まで。ラストオーダーは30分前まで)。日曜休み。
ほか、吉祥寺店あり。
たまき・やまと 作家。1966年生まれ。東京都出身。
代表作に「鯖猫長屋ふしぎ草紙」シリーズ(PHP文芸文庫)。最新作10巻は8月刊行予定。