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昭和歌謡にトロット、「日韓歌王戦」に釘付け

©CReA Studio

 日本と韓国の歌手が歌で競い合う「日韓歌王戦」に釘付けになった。韓国のMBNの番組で、10%を超える高視聴率を記録。日本の歌手が韓国のテレビで歌うこと自体が珍しかったが、昭和歌謡を韓国の歌手が、韓国版演歌とも言われる「トロット」を日本の歌手が歌う、これまでにない試みで注目を集めた。

 韓国では4月2日~5月7日、全6回にわたって放送され、日本ではWOWOWで放送、ABEMAで配信中だ。初回の冒頭には、日本の文化庁長官で作曲家の都倉俊一さんや、韓国の金振杓(キム・ジンピョ)国会議長がお祝いのメッセージを寄せ、両国の友好を前面に打ち出した番組だった。

 韓国では近年、トロットがオーディション番組を通して人気に火が付き、若いトロット歌手が増えている。「日韓歌王戦」はトロットオーディション番組の日韓代表戦で、出演する女性14人は、それぞれ日本と韓国のオーディション番組で選ばれた上位の7人。現役の歌手もいれば、高校生や会社員もいる。歌手の松崎しげるさんや南野陽子さん、元宝塚歌劇団員でタレントの遼河はるひさんらが審査委員として参加し、勝敗は審査委員と観覧客の投票による合計得点で決められた。全3回戦のうち、1回戦は日本チーム、2回戦は韓国チームが勝ち、1勝1敗で迎えた3回戦、韓国チームが4対3で勝利をつかんだ。

 

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 当初全5回の予定だったが、好評を受けて全6回に延長され、最終回は結果発表の後、点数に関係なくガラショーで大いに盛り上がった。

 選曲は演歌やトロットのほか、尾崎豊の「I LOVE YOU」や五輪真弓の「恋人よ」、X JAPANの「ENDLESS RAIN」など韓国でよく知られる日本の懐メロも多く、日韓の歌手が一つの曲を交互に歌ったり、1人の歌手が日韓両言語で歌ったり、様々なかたちで日韓の競演が繰り広げられた。

 「演歌の神童」と呼ばれる福岡出身の高校生、東亜樹さんはトロットの名曲「木浦の涙」や「釜山港へ帰れ」を韓国語で情感たっぷりに歌い上げ、涙を浮かべる審査委員もいた。小学生のころから日本にある韓国の介護施設を慰問で訪れ、韓国語でトロットを歌うようになったという。「釜山港へ帰れ」は日本でも1980年代に人気を集めたチョー・ヨンピルの代表曲。チョー・ヨンピルは87年に初めて紅白歌合戦に出演した韓国歌手として知られる。

 同じく高校生の住田愛子さんはアイドルグループ「SPL∞ASH」(スプラッシュ)のメンバー。近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」を力強いダンスと共に披露し、視聴者を虜にした。韓国で80年代に流行したローラースケート場で流れ、密かにヒットした曲だ。当時若者だった40~50代はいまもカラオケに行くと「ギンギラギン」を熱唱する。「密かに」というのは、当時日本の大衆文化は韓国では流入が制限されていたためだ。とはいえ海賊版で広まり、人気を集めた曲も少なくない。日本の大衆文化は98年以降、段階的に開放された。

 トロットはもともと中高年が好むジャンルだったが、近年は幅広い世代でブームとなっている。最も人気が出たのは、91年生まれの男性歌手イム・ヨンウンで、公式YouTubeチャンネルの登録者数は161万人を超えるほどだ。一方、日本でも昭和歌謡が動画共有サイトなどを通して若者の人気を集めており、両国のブームが合致したことも「日韓歌王戦」をもり立てた一因だ。SNSの反響を見てみると「日韓歌王戦」をきっかけにJ-POPに目覚めた韓国の若者も少なくないようだ。

 

 成川彩(なりかわ・あや)

 韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。

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