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関東大震災の虐殺事件を描くドキュメンタリー映画が韓国で公開

 

 NHKの朝の連続テレビ小説「虎に翼」で関東大震災の朝鮮人虐殺について言及する場面が描かれ、日本で注目を浴びる一方、韓国でも8月15日、ドキュメンタリー映画「1923関東大虐殺」(キム・テヨン、チェ・ギュソク監督)が公開される。ソウルであった公開前イベントに、関東大震災前後の東京を舞台にした映画「金子文子と朴烈」(2017)のイ・ジュンイク監督が登壇し、ドキュメンタリーの感想や、日韓の歴史問題について「市民の連帯」をテーマに語った。

 

=写真はいずれも映画特別市SMC提供

 1923年9月1日の関東大震災で「朝鮮人が暴動を起こす」といった流言が広がり、多くの朝鮮人が虐殺された。8月15日は日本では終戦記念日だが、韓国では「光復節」と呼ばれ、日本の植民地支配から解放されたことを祝う日だ。植民地時代に起きた悲劇として「1923関東大虐殺」は公開される。韓国で虐殺事件が広く知られるようになったのは最近のこと。「金子文子と朴烈」の公開や、昨年が関東大震災から100年にあたったのを機に関心が高まってきた。

 「1923関東大虐殺」を見たイ・ジュンイク監督は、まず歴史学者の山田昭次・立教大学名誉教授の登場を喜んだ。「『金子文子と朴烈』を作るにあたって、山田先生の著作を大いに参考にした。直接会ってお礼を言う機会はなかったが、スクリーンを通してお目にかかり、改めて感謝を述べたい」と語った。

 

=映画「1923関東大虐殺」の一場面

 「金子文子と朴烈」は、実在の人物をモデルにしたフィクションだ。朝鮮人の朴烈とパートナーの金子文子はいずれもアナーキスト(無政府主義者)で、関東大震災後の混乱の中で検挙され、大逆罪に問われた。イ・ジュンイク監督は「ドキュメンタリーは資料を根拠に当事者らの証言を通して真実に迫ろうとするが、フィクションは資料を根拠にしつつ、虚構を通して真実に近づこうとする」と、その違いを述べた。大ヒット作「王の男」(2005)や「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」(2016)など、歴史にまつわる映画を作ってきた監督だが、多くの資料を調べたうえで、映画を通して新たな視点を投げかけるのが特徴だ。

 

=映画「1923関東大虐殺」の一場面

 「金子文子と朴烈」は虐殺事件を素材にしつつ、国を超えたアナーキストの連帯を描いた。それは主人公の朴烈が映画の冒頭で発する「日本の権力には逆らうが、民衆には親近感を抱いている」というセリフに表れている。

 一方、トークの進行役を務めた映画ジャーナリストのパク・ヘウンさんは「この映画(「1923関東大虐殺」)の独特のポイントは、登場する多くの人物が日本人ということ。日本に対する敵愾心(てきがいしん)よりも、どうやって事件に向き合うべきかという、未来志向的な視点を感じた」と指摘した。映画には「事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と主張する日本政府や、朝鮮人犠牲者追悼式典に追悼文を寄せない小池百合子・東京都知事も出てくるが、むしろ虐殺事件について長年にわたって調べ、悼み続けてきた日本の市民や研究者に光を当てている。

 

 

 イ・ジュンイク監督も「反日や嫌韓という感情は国家主義によるもので、このドキュメンタリーを通して多くの日本の人たちの良心的な声を聞くことができる」と評価した。歴史問題で国家間が対立することはあっても、市民同士は連帯できると感じさせる映画であり、トークだった。

 「1923関東大虐殺」は、韓国での公開に先立つ5月に日本の国会議員会館で試写会が開かれ、来年に日本でも劇場で上映が予定されている。

 

 成川彩(なりかわ・あや)

 韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。

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