日韓国交正常化60周年を迎えた2025年、韓国では、空前のブームと言っていいほど日本の漫画や映画、音楽に関心が高まっている。昨年、人気漫画「ベルサイユのばら」を原作にしたミュージカルがソウルで上演された。1月からは是枝裕和監督の映画「海街diary」(2015)が原作の演劇がソウルで公演され、好評を得ている。
是枝監督の「海街diary」は吉田秋生の漫画が原作だが、ソウルで上演中の演劇は是枝監督の映画を原作としている。登場人物の名前は日本名のまま、鎌倉や山形といった設定も原作の通りで、さらに舞台ならではのおもしろさが加わっていた。三人姉妹と、腹違いの妹すず、すずの男友達風太をのぞく多くの人物を男女2人の俳優が一人多役で演じた点だ。ある時は眼鏡をかけるだけで別人に成り代わるなど笑いを誘う演出だった。「芸術の殿堂」で3月23日まで上演される。
個人的には、すずを演じた子役のユナが目当てだった。昨年ヒットしたドラマ「グッド・パートナー~離婚のお悩み解決します~」で主人公チャ・ウンギョン(チャン・ナラ)の娘役を熱演し、SBS演技大賞の青少年演技賞を受賞した。2011年生まれの中学生だが、目を見張る演技力だ。「海街diary」で演じたすずは姉たちと別に育ち、家族に複雑な感情を抱いている。舞台から繊細な感情表現が客席までしっかり伝わってきた。ほかにも長女役にダブルキャストでハン・ヘジン、パク・ハソン、次女役にイム・スヒャンら、映画やドラマで主演級の俳優らが出演し、見応えたっぷりだった。
是枝監督は韓国でもっとも人気の日本の監督で、さらに「海街diary」のメイン舞台である鎌倉は漫画「スラムダンク」を通して韓国でもよく知られている。ロケ地を巡るファンたちも多い。2023年はアニメーション映画「すずめの戸締まり」と「THE FIRST SLAM DUNK」が相次いで韓国での日本映画の興行記録を塗り替えて話題になった。
韓国で日本映画といえば圧倒的にアニメが人気だが、今年は実写映画も注目を集める。特に3月に韓国公開を控える「劇映画 孤独のグルメ」(松重豊監督)は韓国の巨済(コジェ)島で撮影した部分があり、韓国の俳優ユ・ジェミョンも出演している。ドラマ「孤独のグルメ」シリーズは韓国で一番人気の日本のドラマで、昨年の釜山国際映画祭に姿を見せた主演の松重豊はスター顔負けの人気っぷりだった。韓国では一人で外食すると人目が気になる雰囲気があり、堂々と一人ご飯を楽しむ「孤独のグルメ」の主人公への憧れが強いようだ。ほかにも木村拓哉主演の「グランメゾン・パリ」にアイドルグループ「2PM」のオク・テギョンが出演し、韓国公開を待ち望む声が高まっている。
昨年放送されたMBNの歌番組「日韓歌王戦」が一つのきっかけとなり、日本の歌が韓国のテレビで流れるのも日常となった。「ギンギラギンにさりげなく」が人気の近藤真彦や「雪の華」が人気の中島美嘉が相次いで「日韓トップテンショー」に出演し、「ついに本物が出た」とお茶の間を沸かせた。「日韓トップテンショー」は「日韓歌王戦」の後続番組だ。
日本へ旅行で訪れる韓国人も増えている。2024年に日本を訪れた外国人は過去最多で約3687万人、このうち韓国人は約882万人で約24%を占めた。昨年12月の非常戒厳宣布から韓国の政治的混乱が続き、次期政権が日韓関係に及ぼす影響は未知数だが、国民の日本文化への関心は過去にないほど高まっている。
成川彩(なりかわ・あや)
韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。新著にエッセー「映画に導かれて暮らす韓国——違いを見つめ、楽しむ50のエッセイ」(クオン)。
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