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日本人作家のミステリーが韓国で映画化
NCTジェヒョン主演「6時間後に君は死ぬ」
イ・ユンソク監督のインタビュー

映画撮影時のイ・ユンソク監督(左)とジェヒョン

高野和明の小説「6時間後に君は死ぬ」(講談社)が、韓国で映画化された。日本でも今月公開される。KーPOPグループNCTのジェヒョンは、本作が映画デビューで初主演。死を予告する謎の男ジュヌを演じている。大学で日本文学を専攻したイ・ユンソク監督は「予測のつかない展開がおもしろい日本のミステリーに韓国の社会問題をからめた」と話す。

ジュヌは他人の未来が見える特殊な能力を持つ。ジュヌに「6時間後に君は死ぬ」と告げられるのは、30歳の誕生日を翌日に控えたジョンユン(パク・ジュヒョン)。ジョンユンは、アルバイトをかけ持ちしながら一日中働いても生活費を払うのが精一杯という毎日を送っている。歯を食いしばって生きているところに死の宣告を受け、6時間というタイムリミットの中で運命に抗おうとする。

 

 写真はすべて©2024, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

 

イ・ユンソク監督は「ジェヒョンさんはいい意味で意外に普通の青年で、雰囲気がジュヌにぴったりだった。アイドルの世界で生き残ってきただけあって仕事に対する姿勢が真剣。意欲的に演技に取り組んでくれた」と振り返る。死の宣告は本当なのか、ジュヌはジョンユンの敵か味方か終盤までわからず、ミステリアスな雰囲気を漂わせた。

一方、ジョンユンを演じたパク・ジュヒョンはNetflixオリジナルドラマ「人間レッスン」(2020)で百想芸術大賞の新人演技賞を受賞したライジングスターだ。イ・ユンソク監督は「『人間レッスン』の彼女のすごい目力が忘れられなかった。現場でも頼れる存在だった」と話す。

 

 

ジュヌは、ジョンユンが6時間後に何者かに殺害される、と告げる。自分を殺すかもしれない相手を探し出そうとするジョンユンにジュヌが同行する。6時間限りの2人旅とも言える。イ・ユンソク監督は映画全体のイメージを「不思議の国のアリス」と考え、ジョンユンをアリス、ジュヌを時計ウサギに見立て、迷い込んでいく2人を描いた。

イ・ユンソク監督は日本映画学校(現・日本映画大学)出身で、長く日本の映画やドラマの現場で活躍した。約20年にわたって日本で暮らし、2022年に帰国。韓国映画の監督としては本作がデビュー作だ。日韓両国をよく知る立場で、日本の小説を韓国で映画化するにあたって意識したのはいまの韓国社会を映すこと。「韓国は競争が激しく、必死でアルバイトをしてもソウルで生き残るのは難しい。生存をキーワードに、殺人犯から生き残るというだけでなく、この社会で生き残るということも重ねた」

 

 

日本の小説が韓国で映画化される例は少なくないが、東野圭吾の「容疑者Xの献身」「白夜行」、宮部みゆきの「火車」などミステリーが多い。イ・ユンソク監督は「日本のミステリー小説は謎解きが意外な展開となっておもしろい。一方、韓国では見終わったときに何か社会的メッセージが残るものをつくろうとする傾向がある。日本のミステリーと韓国の社会問題が組み合わされば、より魅力的な作品が生まれる」と教えてくれた。

映画「6時間後に君は死ぬ」は富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭で観客賞と俳優賞(パク・ジュヒョン)を受賞し、大阪アジアン映画祭でも特別招待作として上映された。5月16日から全国で公開される。

 

 

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。新著にエッセー「映画に導かれて暮らす韓国——違いを見つめ、楽しむ50のエッセイ」(クオン)。

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