原田マハの小説「旅屋おかえり」が韓国でドラマ化され、8月2日からチャンネルAで放送が始まった。放送直前にソウルで開かれた記者会見で、出演した俳優たちは「ヒーリング」という言葉を繰り返した。刺激的な作品が多い韓国で、地方旅がテーマの癒し系ドラマに注目が集まる。
主人公ヨルムを演じるのはコン・スンヨン。アイドルとしてデビューしたもののパッとせず、旅行番組のレポーターを務めていたがその番組も打ち切り、という役柄。いままで演じてきた役でもっとも自身に近いという。
写真はすべてチャンネルA提供
コン・スンヨンの妹は本物のアイドル、TWICEのジョンヨンだ。ドラマにはアイドルとして舞台に立つ場面が少し盛り込まれているが、恥ずかしくて言い出せないまま、実はこっそり妹を参考にしたと話した。
「旅屋おかえり」は日本でもNHKでドラマ化され、主人公は安藤サクラが演じた。原作の主人公の名前は「丘えりか」で、タイトルの「おかえり」としゃれになっている。しかし韓国語だとタイトルと名前をかけるのは難しい。ストレートに「旅を代行します」となった。
旅番組が打ち切られて落ち込んでいたところへ舞い込む旅行の代行。ヨルムは依頼した人に代わって旅に出る、という大まかな設定は原作通り。ただ、旅先の多くは韓国の地方だ。会見では、扶余(プヨ)、浦項(ポハン)、晋州(チンジュ)、そして北海道の函館へ行くことが明かされた。北海道は韓国でヒットした岩井俊二監督の映画「Love Letter」の舞台として知られ、特に人気の旅行先だ。
依頼者には自らはその地へ赴けない事情、代わりをたててでも行ってほしいわけがあり、その謎解きも見どころの一つ。ハイライトの映像には地方の美しい景色が次々に登場し、ドラマを見ているだけで旅の気分を味わえそうだ。
会見場の出入り口には、ヨルムの相手役ヨンソクを演じるキム・ジェヨンのファンが集まっていて、人気の高さが感じられた。キム・ジェヨンは記憶に残る撮影地として晋州を挙げ、特に晋州城の夜景が美しかったと語った。ヨンソクが旅を代行するヨルムに同行するうち、2人の間に恋が芽生える展開となりそうだ。
ヨルムが所属する芸能事務所の社長を演じるのはユ・ジュンサン。ユ・ジュンサンといえばミュージカルスターでもある。今回のドラマでは音楽もユ・ジュンサンが担当した。
原作者の原田マハさんはソウルの撮影現場を訪れ、出演者と食事をしたり、ユ・ジュンサンが出演するミュージカルを見たり、大いに楽しんだそうだ。「小説すばる」に韓国旅のエッセイを書いている。エッセイによれば、韓国で「旅屋おかえり」がドラマ化されたのは「残酷なシーンがない」というのが一つの理由だそうだ。過激な描写が多いドラマに疲れた視聴者は、優しく癒されるドラマを求めていると制作陣は考えた。出演者も台本を読んでいるだけで癒されたと語っていた。
函館のシーンには韓国でも人気の藤井美菜が出演すると発表されているが、ハイライト映像にはともさかりえの姿もあった。原作が日本の小説で、函館での撮影に日本の俳優も出演。日本での放送が待ち遠しい。
成川彩(なりかわ・あや)
韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。新著にエッセー「映画に導かれて暮らす韓国——違いを見つめ、楽しむ50のエッセイ」(クオン)。2023年に鶴峰賞(日韓関係メディア賞)メディア報道部門大賞を受賞。
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