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韓国でヒット 人生について語りたくなる映画「最後のピクニック」

昨年、韓国の65歳以上の人口が全人口の20%を超えた。近年は老いがテーマの映画やドラマが増え、高齢化が韓国でも身近な問題になってきたと実感する。3人のベテラン俳優が好演し、日本でも公開中の映画「最後のピクニック」もその一つ。老いてどう生きるのか、どう死を迎えるのか、考えさせられる。キム・ヨンギュン監督に作品に込めた思いを聞いた。

ソウルで一人暮らしをしていた主人公のウンシム(ナ・ムニ)は、息子のトラブルをきっかけに故郷の田舎にいる親友グムスン(キム・ヨンオク)のもとへ行き、かつてウンシムに恋心を抱いていたテホ(パク・クニョン)と60年ぶりに会う。マッコリを飲みかわしながら昔話に花を咲かせたり、一緒に歌を歌ったり。「最後のピクニック」は年老いて再会した3人の友情物語だ。

 

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きれいごとだけ描かれているわけではない。それぞれ持病があって体が思うように動かないが、子どもの負担にはなりたくない。それどころか、子どもたちはいつまでたっても心配の種だ。ウンシムの息子は事業での不正が明るみに出て、多額の借金を背負って母に助けを求める。キム監督は「恥ずかしながら、いい歳をして問題を起こして親に頼るウンシムの子は自分の経験と重なる。親孝行をしなかったわけではないけれど、親が亡くなって思い出すのは親を困らせたことばかり」と打ち明ける。自分のように後悔しないよう、親が生きているうちに孝行してほしい、という思いを込めて映画をつくった。

 

 

ウンシム、グムスン、テホを演じた俳優はみな、実年齢が80代、演技歴もそれぞれ60年を超える。高齢の俳優が主演の映画は集客が難しいと思われがちだが、キム監督は「誰もが認める最高の俳優陣。3人の俳優のパワーで企画が通った。俳優にとっても自分たちの世代が主人公の映画というのが魅力的だったようで、喜んで出演してくれた」と言う。

韓国の原題は「ソプン」だ。ソプンはピクニックという意味で、楽しい映画を想像して見たら、終盤の展開に衝撃を受けたという観客も少なくなかった。「ソプン」は詩人千祥炳(チョン・サンビョン)の「帰天」という有名な詩の一節が由来という。人生をピクニックに例え、空に帰っていくという内容の詩だ。

 

 

キム監督は「誰もが老いていつかは死ぬとわかっていながら、それを忘れて生きている。でも、老いや死を考えて生きる方が幸せな人生が送れる。なぜならいまを大切に生きるから」と話す。韓国の観客の反応も「これから自分がどう生きるべきか、考えさせられた」「私も娘であり、母であり、いつかはおばあさん」と、自分ごととして受け止める感想が多かったという。

 

 

いま50代半ばのキム監督は「40代のころは目標を失った感じだった」と振り返る。この映画を撮りながら、3人の俳優の情熱的な仕事っぷりに刺激を受け、自分がどう生きたいのかをあらためて考えるようになった。「年老いても監督として一生懸命働きたい。機会さえもらえれば、新入社員のように何でもやるつもり」と目を輝かせた。

 

【公開情報】 

東京の新宿武蔵野館、名古屋の伏見ミリオン座、大阪のテアトル梅田、福岡のkino cinéma天神など全国で上映中。

 

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。新著にエッセー「映画に導かれて暮らす韓国——違いを見つめ、楽しむ50のエッセイ」(クオン)。2023年に鶴峰賞(日韓関係メディア賞)メディア報道部門大賞を受賞。

 

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