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水墨画【上】 畠山記念館

雪村らの室町絵画を楽しむ

雪村周継「竹林七賢図屏風(左隻)」重文 室町時代(16世紀) 紙本墨画
雪村周継「竹林七賢図屏風(左隻)」重文 室町時代(16世紀) 紙本墨画
雪村周継「竹林七賢図屏風(左隻)」重文 室町時代(16世紀) 紙本墨画 伝 岳翁蔵丘「春景山水図(部分)」重文 室町時代(15世紀) 紙本墨画淡彩

 若冲(じゃくちゅう)、蕭白(しょうはく)ら「奇想の画家」の元祖といわれ、東京芸術大学大学美術館で開催中の展覧会でも注目されている室町時代の水墨画家、雪村周継(せっそんしゅうけい)。その雪村晩年の大作を含む水墨画が充実しているのが畠山記念館です。中国の水墨画家、伝 牧谿(もっけい)の国宝「煙寺晩鐘図」や伝 趙昌(ちょうしょう)の国宝「林檎(りんご)花図」など137点を所蔵しています。

 墨で風景や人物を描く水墨画は、鎌倉時代に禅宗の僧侶により中国から伝えられ、室町時代に盛んに制作されました。僧侶でもあった雪村71歳の作品が「竹林七賢図屛風(びょうぶ)」。竹林で清談にふける三国時代の七人の隠士が題材で、酔って空を見上げる姿などユーモラスに人物を表現しています。この絵の魅力はなんといっても独特の線が作り出す表情。衣などを太い線でわざとたどたどしく描き、薄い墨を重ねて雰囲気を出しました。さっと描いた水や草、笹も濃淡でリズムを生んでいます。

 雪村が「奇想」といわれるゆえんは、都から遠く離れた北関東と東北で活動し、因習にとらわれず自由に描けたこともあるでしょう。

 一方、京で描かれた「春景山水図」は山奥の庵(いおり)に友を訪ねるという、流行の画題。禅僧の岳翁が細い線で描いた典型的な室町水墨画です。

 両作品とも中国古代の「隠逸(いんいつ)思想」がテーマですが、表現方法は大きく異なります。室町水墨画の表現の幅広さを感じることができるでしょう。

(聞き手・石井久美子)


 コレクションの概要

 能登国主畠山氏の後裔(こうえい)で荏原製作所を創業した畠山一清(1881~1971)が、ポンプ事業の傍ら能楽と茶の湯をたしなみ、美術品の収集に努めた。1964年、私邸の一角に記念館を開館。茶道具を中心に、国宝、重要文化財を含む東アジアの古美術約1300件を所蔵する。日本庭園を望む展示室内には、茶室「省庵」と茶庭が設けられる。年4回、所蔵作品による企画展を開催。

 「竹林七賢図屛風」は6月18日まで、「林檎花図」は5月23日から6月18日までの春季展「茶の湯の名品」で展示。「春景山水図」は当面公開の予定なし。

《畠山記念館》 東京都港区白金台2の20の12(TEL03・3447・5787)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。700円。5月12日と(月)休み。

島尾新さん

学習院大文学部教授 島尾新さん

しまお・あらた 日本美術史家。室町時代を中心に水墨画を研究。東京大・美術史学科卒業、同大学院修士課程修了。東京文化財研究所美術部広領域研究室長、多摩美術大教授などを経て現職。「日本美術全集9 水墨画とやまと絵」を責任編集。

(2017年5月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)