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近代西洋ガラス工芸【下】 箱根ラリック美術館

ラリック作品の変遷を堪能

ルネ・ラリック 香水瓶「シクラメン」コティ社(1909年)
ルネ・ラリック 香水瓶「シクラメン」コティ社(1909年)
ルネ・ラリック 香水瓶「シクラメン」コティ社(1909年) ルネ・ラリック 彫像「コート・ダジュール」(1929年)

 20世紀前半、近代化による大量生産を背景に機能美を追究するアールデコが登場すると、一線に躍り出たのが仏のルネ・ラリック(1860~1945)です。宝飾作家として成功し、50代でガラス工芸家に転身後も活躍しました。ラリック作品の変遷と当時の装飾美術を堪能できるのが、箱根ラリック美術館です。

 ラリックが手がけた初期のガラス作品の代表作、香水瓶「シクラメン」は香水を扱うコティ社から依頼され、制作しました。瓶のデザインは、それまでのアールヌーボー様式の特徴である曲線や華やかな色彩とは趣が異なり、直線的でよりシンプル。表面にはシクラメンの花を持った妖精が、花の匂いを嗅ぐ姿が描かれ、中の香りが想像できるデザインになっています。この斬新な香水瓶が人気を博すと、各メーカーが制作を依頼。これを機に、日常を彩るガラス工芸に力を注ぎました。

 創作の場は豪華列車の内装にも及びます。手がけた列車と同名の彫像「コート・ダジュール」は、路線の開通記念に招待客に贈呈した記念品です。モチーフの女性の姿はさっそうと風を切って走る列車を表現。女性たちが活発になった時代と呼応していますね。

 多種多様な作品を生み出したラリック。人々が求める「美」に応えた彼の手腕が見て取れます。

(聞き手・吉田愛)


 どんなコレクション?

 髪飾りやブローチなどのジュエリーのほか、香水瓶やグラス、花器など約1500点を収蔵。ラリックが内装を手がけた豪華列車「コート・ダジュール号」(後のオリエント急行)の1車両の展示も。美術館は不動産業などを営んだ籏功泰(はた・かずやす、1929~2016)が設立。仏の蚤(のみ)の市で、ラリックのカーマスコットを見つけたのを機に収集し、2005年に開館した。「シクラメン」は常設、彫像「コート・ダジュール」は11月26日まで展示。

《箱根ラリック美術館》 神奈川県箱根町仙石原186の1(TEL0460・84・2255)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。1500円。

山根郁信さん

美術商 山根郁信

やまね・いくのぶ 兵庫・神戸のアンティーク専門店「アンティック・エルテ 1920」の代表。アールヌーボー期の美術品に精通し、展覧会図録にも多数執筆する。編著に「別冊太陽 ガレとラリックのジャポニスム」など。

(2017年8月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)