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民芸【下】 河井寛次郎記念館

古い道具に見る、新たな美

「大臼」と木製椅子
「大臼」と木製椅子
「大臼」と木製椅子 「屋根の付いた家具」 1937年

 私は、民芸とは本質的に、ものを見立てる価値の体系だと思っています。それは、かつて使われていた古い道具に新たな美を見いだすという発想です。

 濱田庄司とともに民芸運動のシンボルとして活動した陶芸家・河井寛次郎。京都の五条坂にある記念館では、その見立ての美を随所に見ることができます。

 中でもこの「大臼」は、民芸の本質をわかりやすく体現しています。もともとは信州の松材で作られ、大家族の農家で何升もの餅をついていたもの。時代とともに使われなくなったこの臼を、河井はテーブルに転用し、自らデザインした椅子と組み合わせました。臼のために作られた形がテーブルのつもりで作るよりもはるかにかっこいい。ならば、ひっくり返してテーブルにしよう。これが民芸本来の感覚の一つだったのです。

 河井は、本当に気に入ったものだけを集め、自分好みの空間を作り上げました。記念館となった家も自ら設計し、家具もデザインする。「屋根の付いた家具」は、水屋と飾り棚を背合わせにした作り付け。棚側中央に古い家具をはめ込み、側面に神棚を取り付けた特殊な形態ですが、この家の吹き抜け空間にぴたりとはまっています。現在の民芸人気の一端には、河井や濱田が貫いた、ものや空間に対するこだわりへの共感もあるのではないでしょうか。

(聞き手・石井久美子)


 どんなコレクション?

 河井寛次郎(1890~1966)が日本各地の民家を参考に設計し、1937年に建築した住居に、河井の陶芸作品や木彫、書など約400点のほか、河井がデザインあるいは収集した家具や調度品を所蔵。工房と登り窯も公開。1973年開館した。新築時に濱田庄司が贈った箱階段や柳宗悦の柱時計などもあり、河井が生活していた当時の雰囲気を感じることができる。「大臼」、「屋根の付いた家具」は常時見られる。

《河井寛次郎記念館》 京都市東山区五条坂鐘鋳町569(問い合わせは075・561・3585)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。900円。(月)((祝)の場合は翌日)休み。年末年始は休館。

濱田琢司さん

南山大人文学部教授 濱田琢司

 はまだ・たくじ 文化地理学者。関西学院大学大学院博士課程修了。濱田庄司は祖父。近年は、モダニズムと民芸運動との関係を研究。著書に「民芸運動と地域文化」、共著に「民芸運動と建築」ほか。

(2017年9月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)