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ロダン彫刻【上】 国立西洋美術館

群像が放つ圧倒的エネルギー

「地獄の門」 1880~90年ごろ/1917年(原型)、1930~33年(鋳造) ブロンズ (c)上野則宏
「地獄の門」 1880~90年ごろ/1917年(原型)、1930~33年(鋳造) ブロンズ ©上野則宏
「地獄の門」 1880~90年ごろ/1917年(原型)、1930~33年(鋳造) ブロンズ (c)上野則宏 「カレーの市民」 1884~88年(原型)、1953年(鋳造) ブロンズ (c)上野則宏

 「近代彫刻の父」とも呼ばれるオーギュスト・ロダン(1840~1917)が、2017年11月に没後100年を迎えます。ロダンの魅力は、彫刻という不動のものに「動き」や「生命感」を持たせたこと。彫刻家の荻原守衛や高村光太郎らにも大きな影響を与え、明治末から戦後にかけて、日本でも「ロダニズム」が席巻しました。

 まず、国立西洋美術館の「地獄の門」を見て欲しい。ロダンが生涯にわたり、自身の思考や技術の全てを傾けた大作です。実業家・松方幸次郎が最初に発注し、石膏(せっこう)原型から3番目に鋳造されたもの。ダンテの「神曲」地獄編に着想を得ており、性別や年齢、姿形が異なる群像から放たれたエネルギーに圧倒されます。「考える人」も、この中の一つ。あごに添えた拳の食い込みからは、目の前で繰り広げられる人間の宿命に、呆然(ぼうぜん)とする姿が浮かびあがります。

 その陰鬱(いんうつ)さを引き継ぐのが「カレーの市民」。自らの命と引き換えに、英仏百年戦争で敵の包囲網からカレー市を救った英雄の碑です。発注者の同市が1人の雄姿を望んだのに対し、ロダンは身を捧げた6人全員を取り上げ、死を前にした人間の絶望や苦悩などを表現。彼らの足は同じ方向を向き、死への歩みを確実に進めています。当初は受け入れを拒んだ市ですが、完成から7年後に除幕式を行っています。

(聞き手・井本久美)


 どんなコレクション?

 現在所蔵するロダンの彫刻、素描、版画は86件を数える。所蔵品の礎を築いた松方幸次郎が仏での収集の際、初代のロダン美術館館長となるレオンス・ベネディット氏にコンサルタント的役割を任せていたこともあり、多くのロダン作品を有している。

 「地獄の門」と「カレーの市民」は、同館前庭で常設展示。10月21日(土)~2018年1月28日(日)、「《地獄の門》への道 ロダン素描集『アルバム・フナイユ』」を開催。

《国立西洋美術館》 東京都台東区上野公園7の7。午前9時半~午後5時半(常設展は(金)(土)8時まで。入館は30分前まで)。500円(常設展)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)と12月28日(木)~2018年1月1日(月・祝)休み。

高橋幸次さん

日本大芸術学部教授 高橋幸次

 たかはし・こうじ 東京大大学院修士課程修了。日大で西洋美術史、美術学などを担当する。近・現代彫刻史の視点から、立体作品と空間・環境・場所の関係を研究。共著に「フランス近代美術史の現在〈ロダン神話の解体と展望〉」他。

(2017年9月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)